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「勉強はやるよ。チームにも昨日から顔出してる。基礎練習からやらせてもらってるし」 『基礎は大事です』 「努力する。きっと、(らく)じゃない。すごく辛くて苦しいと思うけど。でも、サッカーが好きだから」 『好きなことは(らく)なことではないものです』 ん? ムーンの返しを頭の中で反芻する。そういうものか? 『すぐできることはすぐ飽きます。やりがいが無くなるから。一方で楽しいことは底がありません。突き詰めて突き詰めて、きっとずっと続いていく。でも好きだから、こなせます』 「そっか。そうだな」 『(らく)なことではなく、(たの)しいと思うことを続けてください』 「うん」 俺がまた迷いなく返事をしたところで、玄関からチャイムが聞こえた。きっと幼馴染だ。クラスは違うものの、欠席していた間の授業のノートを見せて貰う約束になっていた。 「人が来たから、じゃあ切る。本当に、今までありがとう」 『いいえ。こちらは満月(まんげつ)ホットダイヤルです。いつでもなんでもおかけになってくださいませ』 高めの声がそう告げて、通話は終了した。
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