2

1/1
前へ
/18ページ
次へ

2

『お電話ありがとうございます。こちら満月(まんげつ)ホットダイヤルです』 名刺サイズのカードに書かれた番号をタップしてみると、すぐにスマホの向こう側から人の声が聞こえた。 事務的で作ったような話し方だが、聞き取りやすく心地よい女性の声だ。 「えっと、その……俺は……」 言葉に詰まる。なんて言って良いのかわからない。 中学に行かなくなってまもなく一ヶ月。俺の担任に依頼された幼馴染が、毎日ウチに来ては母親に渡していくプリントの束からポロリと落ちたこのカード。この手のカードは前にも学校で配られたことはあったものの、実際に電話してみるのは今日が初めてだ。 『お電話ありがとうございます』 「いや……」 『かけていただいて嬉しいのです。カードなんて、受け取ってもかけてくださらないことにはなにも出来ませんので』 「いや、だから。あのさ、俺は別に命を絶とうとかまで思い詰めてるわけじゃないんだけど?」 『そうなんですか?』 「そうだよ」 『それを聞いて安心しました』 電話越しに心からの安堵のような吐息が聞こえた。どうやら心配してくれていたらしい。 それを聞いて俺もまた、胸が痛くなった。痛くなって……ついそのまま通話終了のボタンを押してしまった。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加