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『こちら満月(まんげつ)ホットダイヤルです』 「よかった。出てくれた。久しぶり」 『ホットダイヤルですからね。きちんとでますよ』 「こないだ急に切ったから。怒ったかと思って」 叱られた子どものような情けない声が出てしまったが、電話の向こうからは初めて事務的ではない穏やかな笑い声が聞こえてきた。 『怒ってはいませんよ』 「そっか。ごめん」 前回ムーンに話してしまった「怖い」の意味について、俺は有り余る時間で自問自答し続けた。 「俺さ。変わるのが怖いんだ」 ムーンは黙っている。が、それは続きを話していい合図でもあるようだった。 「今のチームで、仲間と楽しくサッカーできたらそれで良かったんだ。たまに小学生にサッカー体験とかして、一緒に遊んでやったりミニゲームしたりしてさ」 『お優しいですね』 「それなのに急に私立の有名校に進学なんて。遠いから下宿になるし、今よりずっと本格的な練習のプログラムをこなすことになる」 『プロに近づけるいいお話ではありませんか?』 「でも今の場所から離れるとか想像できなくて。地元とも、親とも友達とも幼馴染とも離れて一人で夢をおうとか。そんな辛くて寂しいこと、俺にできるのかなって……考えたら怖くなった」 『そういうことでしたか』 一気に思いをぶつけてしまったが、ムーンは静かにそれだけ言って黙る。
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