ある動画投稿者の失踪

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ある動画投稿者の失踪

ある動画投稿者がいた。 気の毒なことに妻に先立たれて以来、精神の不調を来した。 彼は仕事もやめ、次第に「周囲の人間が自分を陥れようとしている」との被害妄想に取り憑かれるようになった。 彼は周囲の人間は全てスパイか敵対勢力だと断定し、執拗に絡んだり、無断で動画撮影するようになった。 彼は被害を知らしめる目的として、その模様を動画投稿し始めた。 困惑する町の人や、行政機関、警察と悶着を起こす…その動画は、ある種のファンを増やし多数視聴されるようになった。 だが、彼の被害妄想から周囲に迷惑をかける模様は瞬く間にアンチを増やした。 彼は精神不調…一種の病のため、特定をさけるような予防線が貼れず、郵便物や自分の家、近所のチェーン店など公開してしまいすぐに特定された。 こうして彼は、被害妄想から実害を被るように変化してしまった。 自宅に侵入され、盗撮される。郵便物が盗まれるなどの被害にあった。 彼はしばらく悩んでいたが、ある時彼ははつらつと反撃の狼煙を上げた。 「すごいもの手に入れた」 「山に墜落機が落ちていた。そこで拾った」 と彼はいって、おかしな道具を動画で公開した。 それは銀色のバトンのようなものだった。 動画内で彼が野鳥や猫といった動物に対し、それを向けスイッチを押すと、一瞬にして消えてしまう。 「次は、攻撃してくる奴を消します」 と宣言した。 彼を囲うコミュニティは「フェイクか否か」で議論した。 彼の病状からもフェイク動画を作るのは不可能ではないか、そう言われたが、彼は動画編集もできるしフェイクの可能性が高い。 ということで結論づけられた。 航空機の墜落なども報道や行政機関から確認されなかったからだ。 だが、反撃をすることもなく、彼は怯え始めた。 「これは使ったらだめだったっぽい」 彼はそう言って、家に籠もるようになった。 動画の頻度は減り、アンチが家に来て呼びかけても一切外に出なかった。 彼はある日泣きながら 「おれはとんでもない目に遭う」 「取り返しのつかないことをした」 と、懺悔する動画を公開した。 ただ、彼の話す内容は支離滅裂で 銀色のバトンを使ったらだめだったんだ としか内容は分からなかった。 その後、動画の投稿はプッツリと止まった。 半年が過ぎ、彼の生存自体が疑わしいとコミュニティは騒ぎになった。 ファンやアンチが現地で聞き込みをするが、近隣に住む者も、全く姿を見てないと言う。 ある日、しびれを切らした迷惑系動画投稿者が彼の家に無断侵入した。 当然犯罪だが、そんなことには構わないようだった。 家は整然としていた。 だが、彼の部屋だけは何かが暴れたように荒れていた。 棚は倒れ、タバコの灰皿はぶちまけられ、壁に穴が空いていた。 迷惑系は、そこで彼が使っていたビデオカメラを発見した。 そこに手がかりがあるのではと迷惑系は実況公開しながら再生した。 そこには、自室で泣き叫ぶ彼に、迫るものが写っていた。 奇怪だった。 見慣れぬ者が3人。 顔は、痩せ細ったシワだらけの意地の悪い老婆のような顔をしている。 険しい表情をしている。 だが、身長は2メートルほどあった。 鴨居や天井すら頭を傾けて打たないようにしていたからだ。 頭には銀色のおかっぱのようなヘルメットを被り、身体はダンボールで作ったような銀色の四角い鎧を着ている。 出来の悪い昔の特撮のようだった。 その者たちは、押し合い圧し合いするように動画投稿者に迫っていた。 「やめてくれー!」 投稿者が絶叫し、銀色の老婆が手を伸ばして迫るところで映像は終わる。 見届けた迷惑系は 「あ、あるぞ、銀色のバトン」 と口にする。 その時点で「良識ある」視聴者から通報を受けた警察がなだれ込み、迷惑系は不法侵入で逮捕された。 失踪した動画投稿者がどうなったかは、未だに分からない。 迷惑系か、それとも他者が持っていったのかは不明だが、銀色のバトンも行方知れずだ。 「銀色の老婆」を撮影した迷惑系の動画も「犯罪助長コンテンツ」として削除された。 不気味な「銀色の老婆」は、一部オカルト系掲示板に時々貼られたりする。 だが、なぜかいち早く「犯罪助長コンテンツ」として早急に削除されてしまうそうだ。 【おわり】
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