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海上の叫び
秋空の中、浜辺を散歩した。
響灘に面した、大赦ヶ浜を歩く。
暦上は秋だがまだまだ残暑はきびしい。
晴れやかな青空と青い海…爽快な眺めではある。
波の音を聞きながら、私は気分よく歩いていた。
波は穏やかで、海面も凪いでいる。
遠くには九州の工場地帯が見える。
遠く水平線を、巨大なコンテナ船が進んでゆく。
カラフルなコンテナは、子ども用ブロックのようにも見える。
行き交う船を良い心持ちで眺めていた私は、あるモノを目にした。
ちょうど、巨大なコンテナ船の後ろだ。
空母のような重量物運搬船だ。
平べったい船体には、巨大な積み荷が載っている。
その積荷がおかしい。
巨大なのだ。
遠く離れた浜にいる私から見ても、あまりにも大きい。
積み上げられたコンテナよりも高い。
10階建てのビルくらいはありそうだ。
そして、見た目は子供の作った粘土細工のようだ。
真っ白の、いびつな人形だった。
不格好な…縦に楕円形の頭と、短い手足が付いており、身体にはチェーンやケーブルが巻き付かれ、固定されている。
不格好な頭には、丸い目が二つ付けられている。
海面と同じような色できれいな青色をしている。
近くで見ると巨大なビー玉のような球体が埋め込まれているのだろう。
何かのモニュメントだろうか。
それにしても趣味の悪い。
遠い海上を、妙な巨大人形が運ばれているのを見て、些か気味が悪かった。
私はそれをぼんやりと眺めていた。
と、背筋が凍った。
そのおかしな粘土人形は手を動かした。
顔を掻いたのである。
そして、何もなかった口の部分がぱっかりと開き、赤い口を開けると、鳴いた。
それはサイレンのような、霧笛のような…間延びした不穏な音程の叫びだった。
どこかで聞いたような…我々の平穏が破られるときに鳴り響く、終末を告げるサイレン…
そんな感じの音だった。
粘土細工は、退屈そうに顔をこすっては、時折大きく口を開け、不気味な声で鳴いていた。
私はそれ以上、その声を聴きたくなくて、耳をふさぐと大赦ヶ浜を立ち去った。
【おわり】
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