赤い糸

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 つい先週まで汗ばむほど暖かかった陽気が一気にひんやりとした冷気へと変わっていた。  まだ衣替えなんてしていなかったこともあり、薄手のシャツでひたすら寒空の下を宛もなく歩いていく。  もう、戻れない――。  戻ればきっとただでは済まないということをわかっているからだ。  考えてみれば俺の人生なんてろくなもんじゃなかったなって思う。  中学生の頃から生傷の耐えない日々だった。  いつしかそんな日常になにも感じなくなってしまったのは、胸の痛みを失くしてしまったからだろうか?  止めてと泣き叫べば面白がって殴られる。抵抗することを止めれば気に入らないと殴られる。結局何をしたって痛みを与えられることに変わりはなかった。  幸せな日々はどうして長く続かないんだろう――?  一緒にいると決めたあの瞬間は笑い合っていたはずなのに――。  道なりに歩いて来て何も飲まず食わずだった俺は、もう体力の限界だった。家を出て初めてその場に膝を折りしゃがみこむ。  寒さと冷たい風が掠めていく度にぴりっと傷に痛みを運んできた。 「あの……大丈夫?」 「あっ、平気です」  跪いている俺の前に同じように膝を折って問いかけられた言葉に、顔を上げることのないまま答える。 「久しぶりだな……」 「えっ……?」  誰も知らない場所へ行きたいと思っていたはずなのに耳に届いた言葉は、俺を一瞬で不安にさせた。  まさかこんな姿を知っている奴に見られるなんてこと――。 「お前、朝倉(こう)()だろ?」  名前を言い当てられてぴくりと体が反応する。  目の前にいる男は、間違いなく俺のことを知っているんだと思った。  恐る恐る顔を上げてそいつの顔を確認する――。 ――どくん――  大きく心臓が跳ね上がったのを感じた。  まさか、こんな再会をするなんて思ってもいなかったから――。  もう二度と会うことなんてないと思っていた中学時代の同級生との偶然の出会い。  戸惑いが隠せなかった。
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