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泰琳寺
それより六年前。
埼玉の泰琳寺は、人形供養で有名な寺だ。
四十代の住職、小栗善昌は頭を丸め、黒い法衣に白い切袴姿だが、法衣を着ていなければ柔道選手か野球選手に見える体格の良さだ。
歴史は古いが、檀家数も減り跡継ぎもなく、廃寺寸前だったこの寺を、婿養子に入った彼の代で人形供養や心霊相談を始め、ここまで大きくしてきた。
と言っても霊感商法で儲けているわけではない。一般人からの相談には手弁当で乗る、情に厚い人物だった。
人形供養の寺として全国的に有名になってから、方々からいわくのある人形が持ち込まれている。
その日も都内の葬儀社の社員、野島が、一体の人形を持ち込んでいた。
「おい清矢、お前もこっちに来てくれ」
小栗住職は、廊下を通りかかった高校生くらいの少年を呼んだ。
「いや、僕はいいです。遠慮します」
少年は断って逃げようとするが、「これも何かの縁だから」と無理やり住職の隣に座らされた。
安部清矢は住職の遠縁に当たる。冬休みで東北から遊びに来ていた。
住職も清矢も東北の霊能力者一族の末裔だが、その血を強く引いているのは清矢の方で、住職より感じる力が強かった。
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