泰琳寺

2/3

39人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
「実は、この人形は」  野島が説明をする。 「三十代の女性が亡くなるまで、“しーちゃん”と名付けて大切にしていた手作りの人形です。一緒に火葬してやって欲しいと頼まれ、棺に入れたのですが……」  火葬が終わって炉を開けると、人形だけ燃え残っていたという。 「ほう」  住職が声を出す。  人形をよく見れば、着ているワンピースが少し焦げていた。 「燃えなかったとご遺族にお見せして、厳粛な葬儀を騒がせるわけにはいきませんから、お骨上げの前に葬儀社の方で引き取りました」  葬儀社で保管していたが、夜泣いていたとか動いたという噂が社員の間に広まり、寺に持参したという。 「どうだ? 清矢、何か感じるか」  住職が隣の少年に聞く。 「何か使命を持っているようですね」  しばらくじっと人形を見てから、清矢は答えた。 「死者の魂が入っているということはないか?」  住職はかつて、亡くなった人の肉体が燃え尽きる前に、その魂が一緒に棺に納められた人形に乗り移って、人形が燃え残ったのを見たことがあった。 「いえ、亡くなった方は成仏されています。おそらく使命を果たすために、人形だけこの世に残ったのでしょう」  清矢は答え、優しい眼差しを人形に向けた。 「けなげな人形ですね。しーちゃん」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加