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使命
ーーしーちゃん、私が死んだら哲郎さんも紬も陸も悲しむわ。だから、どうか見守ってあげてほしいの。本当はしーちゃんと一緒に逝きたいけれど、あなたに家族を託すことにするわーー
志帆子が亡くなる前にそう頼まれた人形は、棺の中で燃え残り、人形供養の寺から逃げた。そして、志帆子の姿で家族を見守り続けた。
けれどももう限界が来ていた。
人形の縫い目はほつれ、目玉はぽろりとこぼれ、必死で覚えた料理の味もわからなくなってきていた。
人間の、志帆子の代わりをするには、限界だった。
(そんな時にアイツが現れた)
ストーカー男とパート仲間が勘違いしたあの青年は、今思い返せば人形供養の寺で出会った少年だった。
「しーちゃん、久しぶり」
優しい眼差しで、思い出した。
きっと迎えに来たのだ。
けれども、人形がいなくなって、家族は大丈夫だろうか? 志帆子の死から立ち直れるのだろうか?
人形にとっても今はもう、彼らは大切な家族、愛しい夫や子供達だった。
離れたくない。
寺へ行けば供養され、ほかの人形と一緒に燃やされてしまう。
そんなことを考えながら、人形、いや志帆子がパート先から家に戻ると、家の前にあの青年がいた。安部清矢だ。
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