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エピローグ
駅前広場でクリスマスマーケットが開かれていた。師走に入り、クリスマスももうすぐだ。
「なんだかわくわくするね! 見て行こうよ!」
通りかかった河島家の三人は、紬の提案で広場に入って行った。
クリスマスソングが流れ、オーナメントやアドベントカレンダーの店、ホットワインの店などが並ぶ中を歩いていくと気分が上がる。
「ね、あそこ!」
紬が指差して走り出す。
アンティークドールを集めた店だった。
「ねえ、これ見て!」
紬は中央に飾られた一体の人形を指差す。
「これは……」
父の哲郎が懐かしそうに言う。
「ママが大切にしていた、しーちゃんに似ているな」
「しーちゃんはママと天国に行ったんだよね?」
幼かった陸は記憶にないが、そう聞かされていた。
「でも髪の色も服の柄も、しーちゃんそっくりだよ。しーちゃんが帰ってきたんだよ。もしかしたら、ママからのクリスマスプレゼントかも! パパ、買っていい?」
陸と違い、紬には母としーちゃんと一緒に遊んだ幼い記憶があった。しーちゃんを抱っこして、お母さんごっこをした想い出が蘇る。
紬のおねだりに、哲郎は店番をしている男に聞く。
「あの、これ、おいくらですか?」
店主は人形を扱う店の主にしては体格がよく顔もいかめしく、サンタクロースの服が微妙に似合っていない。
「これは売れ残りでね。お安くしておきますよ」
値段を聞くと、思っていた以上に安かった。
「じゃあ、これ下さい」
哲郎は財布を取り出す。
「抱いていくのでそのままでいいです」
紬はそう言って人形を受け取る。
「これでいいか?」
家族が店を去ると、店主、いや小栗住職が影に隠れていた清矢に聞く。
清矢は顔が割れているので、「異教徒の祭は流石にまずい!」と抵抗する住職に店主をやらせたのだ。
「売れ残りって台詞は余計でしたが、まあ合格です。これでしーちゃんは望み通り、あの家族の元に戻れましたからね」
住職は人形の希望を聞きお焚き上げはせず、人間になりかけた魂を人形のそれに戻した。ほつれは住職の妻が繕った。
もう人間を傷つけることはない。
「今度は人形として、彼らを見守っていくでしょう」
清矢と住職は、仲良く去っていく三人を見送った。
紬は嬉しそうに、腕の中の人形に声をかけた。抱いた感触が昔を思い出させた。
「久しぶりだね! しーちゃん」
<了>
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