平凡な幸せ

1/2
39人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

平凡な幸せ

「ママ! お弁当忘れた!」  一度家を出てから忘れ物に気づき、慌てて戻ってきた娘の(つむぎ)が玄関から大きな声で叫ぶ。 「もう! いっつもなんだから」  母の志帆子(しほこ)はブツブツ言いながら、食卓に置いたままの巾着袋を玄関の紬に渡す。ギンガムチェックの可愛い袋は、志帆子が縫ったものだ。 「サンキュ! いってきます」  紬は出て行こうとして、ふと思い出して振り返る。 「ママ、昨日の卵焼き、味薄かったよ!」 「もっと早く言ってよ!」    塩が足りなかったのだろうか。最近、自分の味覚に自信がない。  遅刻ギリギリで紬は慌てて出て行った。 (賑やかだこと……)  しかし中学校に入学後しばらくして、紬は学校でつらいいじめに遭い、不登校になっていた。こうして元気に通学できるようになり、本当にありがたい。  娘をいじめた牧野梨華は二階から飛び降りて大怪我をし、傷が癒えたあとも精神(こころ)を病んだまま、今も入院中と聞いた。必ず報いは受けるのだ。 「ママ、いってきます!」  夫、娘と見送って、最後は末っ子の(りく)の見送りだ。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!