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平凡な幸せ
「ママ! お弁当忘れた!」
一度家を出てから忘れ物に気づき、慌てて戻ってきた娘の紬が玄関から大きな声で叫ぶ。
「もう! いっつもなんだから」
母の志帆子はブツブツ言いながら、食卓に置いたままの巾着袋を玄関の紬に渡す。ギンガムチェックの可愛い袋は、志帆子が縫ったものだ。
「サンキュ! いってきます」
紬は出て行こうとして、ふと思い出して振り返る。
「ママ、昨日の卵焼き、味薄かったよ!」
「もっと早く言ってよ!」
塩が足りなかったのだろうか。最近、自分の味覚に自信がない。
遅刻ギリギリで紬は慌てて出て行った。
(賑やかだこと……)
しかし中学校に入学後しばらくして、紬は学校でつらいいじめに遭い、不登校になっていた。こうして元気に通学できるようになり、本当にありがたい。
娘をいじめた牧野梨華は二階から飛び降りて大怪我をし、傷が癒えたあとも精神を病んだまま、今も入院中と聞いた。必ず報いは受けるのだ。
「ママ、いってきます!」
夫、娘と見送って、最後は末っ子の陸の見送りだ。
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