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穏やかで淡々としていて、家族で一番しっかり者なのが陸だった。
「いってらっしゃい。車に気をつけてね」
「うん。あれ?」
靴を履き、振り返った陸が、母親の足元を見る。
「ママ、糸がほつれてるよ」
陸は志帆子のスカートの下から出ている糸を手に取り引っ張る。
「あれれ、どんどんほつれていくよ!」
笑いながらふざけて引っ張っていた陸は、「でもこれ、スカートからじゃない。色が違うもん」と言う。
志帆子は紺色のスカートを履いていたが、糸は肌色だ。
志帆子は真っ青になる。
「だめだめ。やめて!」
志帆子の慌てように陸は手を止めて、「いってきまーす!」と元気に出かけて行った。
河島家はメーカー勤務の哲郎と、パート勤務の志帆子、それに中二の紬と小四の陸の四人、平凡だが幸せな家庭だった。
「やだ。縫わなきゃ」
志帆子は慌ててリビングに行くと、裁縫箱を取り出してこれ以上ほつれないように、スカートをまくり上げて肌をチクチク縫い始めた。
ふと心に不安がよぎる。
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