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団欒
その夜、夫が早く帰宅したので家族四人で食卓を囲んだ。
「ママ、また味付けが薄いよ!」
中華風の炒め物を食べた娘が言う。
「あら、ごめんね。お醤油足して」
志帆子は醤油差しを紬に渡す。
「おい、紬。ママは毎日、パートも家事も頑張ってるんだ。たまには料理も失敗するさ」
哲郎が優しいことを言ってくれる。
「ほんとにパパは愛妻家だなあ」
紬がからかう。
「そりゃそうだ。こんないい奥さんはいないからな」
哲郎は照れずにそう言う。本当にそう思ってくれているのだ。
「あなた、ありがとう」
志帆子は微笑む。
優しい言葉が心を慰めてくれる。だがそれでも、志帆子の心はすっきりとは晴れなかった。
「――だよね? ママ」
食事が終わったあと、食器を流しに運んでいると、食卓で仲良く話をしている夫と子供がその話題を志帆子に振ってくる。
「え、ええ」
適当に返事をしながら皿を洗い桶に浸けようとして、「あっ」と声が漏れる。
ーーポチャン!ーー
志帆子が下を向いた途端、水が溜まった洗い桶に右の目玉が落ちたのだ。
志帆子は慌てて拾うと、洗剤がついたそれを軽く水洗いして慌てて右目に押し込んだ。
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