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霜馬が私の手首を掴んで引っ張った。容易に手を握らない所が霜馬っぽい。
「行くで。電車来る」
私たちは改札を通って、駅のホームに向かった。最後尾に並び、電車を待った。
金曜日の新宿駅のホームは混雑していた。ましてや環状線のホームなんて大混雑だ。
案の定電車も満員で、私は思わずため息を溢してしまった。
「見送ろう」
私はそう言った。これは乗れそうにない。
「そうやな」と霜馬が同意した。
私たちを乗せなかった電車がゆっくりと扉を閉める。颯爽と新宿駅からいなくなり、ホームには私たちと他にも取り残された人たちがいた。
霜馬はまだ私の手首を握っている。傍から見たらじれったく思うだろう。
ぼんやりとする霜馬に、告白が嘘だったのではないかと思わされた。
私は「霜馬」と言って、手首を指さした。霜馬はそれに気が付いて慌てて手を離す。
「ごめん」
私は首を横に振った。
段々と冷めていく手首の温度を感じる。
私は霜馬の手を見た。ゴツゴツとした、私よりも大きな手。
私はその掌を掴んだ。霜馬がこちらを見る。それからギュッと握り返してきた。
「都合よく捉えて良いの?」
「……いいよ」
霜馬と視線がぶつかった。
霜馬がはにかむ。つられて私もはにかんだ。
素直になってみようと思った。怖かったけど、霜馬なら大丈夫だと思った。
(了)
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