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誰にだって思い出したくない記憶がある。
それと同じで、思い出しくない感情もある。
思い出せないのではなく、思い出したくない感情。
「菜月、久しぶり」
真っ黒なサラサラのストレートヘアーに、ぱっちりとした目。右目の下にある小さなほくろ。
サークル一のイケメンとして名を馳せていた霜馬が、私を見つめていた。
あの時とまったく変わらない優しい瞳だ。
刹那、ぶわぁっと思い出したくなかった感情が蘇る。
だから会いたくなかったのだ、一生。
残業を理由に、「やっぱり行けそうにない」と連絡すればよかったかな。
どうしてこういう日に限って、残業が意外にも早く終わったりするのだろう。
久々の再会を嬉しく思いながらも、そんな事を考えてしまった。
別に霜馬とは何もない。元カレでもない。喧嘩もしたことがない。
私たちの間には何もない。
だけど一方的に私は霜馬に会いたくなかった。
思い出したくない感情を思い出してしまうから。
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