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私は全員に挨拶をすると、空いていた席に座った。その隣に霜馬が座った。どうやら霜馬の隣だったらしい。
今からでも他の所に移ろうかな。でも空いている席がないや。
今はとにかく、霜馬から離れたい。じゃないと、頭がおかしくなりそうだ。
霜馬は私から目を離してくれなかった。
「ウーロン茶でいい?」
「あ、うん。よく分かったね」
「いつもウーロン茶飲んでたし」
霜馬がタブレットを通して飲み物を注文してくれた。
私は「ありがとう」と小さくお礼を言う。霜馬がニコッと微笑んだ。
「菜月、今何やってるんだっけ?」
「漫画の編集」
「そうだった。大変?」
「まぁ、毎日残業かな」
「編集って大変そうだよなー」
失礼しまーす、と言って店員が元気よく扉を開ける。
ウーロン茶が私の手元に届くと、私は周りと乾杯を交わしながら一口飲んだ。
「まぁでも好きでやってるから別に苦ではないよ」
「家帰れるの?」
「帰れるけど、帰れない日は会社に寝泊まりする」
「うわー」
霜馬がぐびっと生ビールを飲んだ。大学生の時はお酒なんて一滴も飲んでいなかったのに、社会に出て飲むようになったらしい。
「それって、他の人も一緒?」
「うん、全員で寝泊まりしてる。各々寝袋がデスクの下に置いてあるよ」
「男もいるの?」
私の動きが一瞬止まった。霜馬はじっと私のことを見つめて、返答を待っていた。
「何でそんなこと聞くの?」
逆に聞き返してみる。
「いや、別に」
逃げるように霜馬が生ビールを飲んだ。それから枝豆に手を伸ばす。
「男と一緒だったら、彼氏が嫉妬しないのかなぁって」
「彼氏は、いないよ」
「……じゃあ、心配ないな」
霜馬が枝豆をぷちぷちと食べた。
私の隣に座っていた女の子が、話が終わったのを悟って話しかけてきた。私は女子集団の輪の中に入ると、霜馬との会話はそれっきりになった。
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