5

1/3
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

5

「二次会行くぞー!」  酔ったリーダーの陽気な声に賛同するように、みんな「おー!」と言ってリーダーの後についていった。  私は「ごめん!」と遠ざかるみんなに声をかけた。 「実は明日も仕事が朝からあって……。だから今日は帰るね」 「え、明日土曜日なのに?」 「うん。取材についていかないといけなくて……」  みんなが残念そうに声をあげた。  リーダーはふわふわの髪の毛を靡かせながら、私に近づいた。私の背中に腕を回して、私を抱き締める。  「え」と思わず声が出た。 「久しぶりに菜月と会えて良かった! また会おうな!」 「あ、うん。会おう」  相当酔ってるな。そういえば酔うと誰かれ構わずハグをするハグ魔だったのを忘れていた。  新歓の時以来、あんまり飲みの場には参加しなかったから、そんな記憶はすっかり忘れてしまっていた。  この記憶みたいに、あの感情も簡単に忘れられたらいいのに。 「ちょいちょい、セクハラやて。やめんか」  霜馬がリーダーを私から引きはがす。リーダーは「ごめーん」とふにゃふにゃした声で言った。 「じゃ、俺も帰るわ」 「え、霜馬も! なんで!」 「いや、俺も明日用事あるんよ」 「嘘だー。行くなー、霜馬ぁー!」  リーダーが霜馬にハグをする。「やめんか」と霜馬はすぐに引き剥がした。  何とか場が収まり、私たちはみんなにさよならの挨拶をして反対方向に向かって歩いた。  後ろからは楽しそうな声が聞こえてくる。 「今どこ住んでんの」 「日暮里」 「山手線?」 「そう。霜馬は?」 「田端」 「山手線か」 「そう」  会話がそこで途切れる。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!