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沈黙が流れた。新宿だからその沈黙もさほど目立たなかったが、私はとても気まずかった。
沈黙が起こると、あの日のことばかり考えてしまうからだ。
「菜月」と言って霜馬が沈黙を破った。
「俺、久しぶりに会えて良かった。会いたかったから、ずっと」
「うん、私も会えて良かった」
「……俺さ、菜月のこと好きだったよ。知ってたかもしれないけど」
私は突然の台詞に驚いて立ち止まった。霜馬が少し先で止まる。
「菜月、俺が告ろうとした時にわざと遮ったやろ。あれけっこう傷ついたんやからな」
「……何のこと?」
「とぼけんな。菜月の考えてることくらい、ずっと見てたんだから分かるわ。俺の目は誤魔化せへんよ」
私は苦笑いを浮かべた。
「菜月も俺のこと好きやったろ?」
「……それ自分で言う?」
「言わなきゃ、菜月言ってくれへんもん。認めたくなかったんだろうけど、好きって気持ち。あれやろ。関係性壊したくないからやろ」
私は何も言わない。その反応に「図星やな」と霜馬が言った。
「今はダメなん?」
「何が?」
「もう同じサークルじゃないし。同じ会社でもない」
真っすぐとした瞳で私に言う。
「好きだったんじゃなくて、俺今でも菜月のこと好きやで」
「……他に彼女いたくせに?」
「付き合ってた人たちには悪いと思っとる。でもやっぱ菜月じゃないとダメなんよな。いっつも目で追うのは、菜月やった。さっきのハグもすげー嫌やった」
ふつふつと溢れだす感情が沸騰して、押さえつけていた蓋が空を舞った。
「返事は今じゃなくていいから」
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