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私は一度スマートフォンを机に置いた。同窓会をすれば久々にみんなと会える。大学を卒業してから一度も会っていない大好きなみんなと会えるのだ。
それなのに、私は何を躊躇っているのだろう。
躊躇うことなんて、一ミリもないのに。
私はみんなのスタンプやリアクションを眺めた。懐かしい名前で溢れたグループチャット。みんなに会いたい。でも、そこにある躊躇い。
とある名前を見つけて、手が止まった。
「霜馬」というアカウント。銀閣寺の壮麗な姿がおさめられたアイコン画像。大学時代から変わっていないんだ、と私は思った。
そのアイコンをタップして、チャット画面に飛んでみた。今やチャット履歴の下の方にあるこのチャットも、数年前までは活発に動いていた。毎日のようにやり取りをしていた。
霜馬の返信がかなり遅いから、一個のトピックで1、2週間ほど続くのだ。
私は当時の記憶が鮮明になる前に、チャット画面を閉じた。またグループチャットに戻る。
多分、躊躇っているのは霜馬が原因だ。会いたくないのだ、彼に。
私は返事を一旦保留にして、スマートフォンをポケットにしまった。足早に会社を後にする。別に足早に会社を出なくてもよかった。けれど、自然と早足になっていた。
駅まで来てスマートフォンを取り出すと、改札に翳した。ピッといつもの音が鳴らない。改札のドアは開かず、ICカードを翳す部分が赤く染まっていた。
もう一度、翳してください。機械めいた女性の声が聞こえる。
後ろに並んでいた人が少し迷惑そうな顔をしていた。私はペコリと謝ると、すぐにスマートフォンを翳した。やっと中に入れてもらえる。
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