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いつもの優しい瞳に今日は信念が交ざっている、吸い込まれそうなほどの強い瞳。
『俺さ、菜月のこと──』
「あ!」
私はビクッとなって、振り返った。塾帰りだろう制服を着た女の子たちが集まっている。
「忘れ物したぁ」
「ええー」
女の子たちが足早に塾に戻っていった。
私はふーっと息を吐いて、また歩き出す。
多分、あの時ああやって遮ったのが間違いだったのだろう。
いや、もしかしたら出会ってしまったのが間違いだったのかもしれない。
ううん、違う。
認めることができない私の臆病さが間違っているのだ。
己の感情を簡単に認められない、見て見ぬフリをしてしまう臆病な自分が間違いなのだ。
家の前まで来ると、鍵を開けた。真っ暗な部屋が私を出迎える。
「ただいま」と誰もいないのになんとなく言ってみる。勿論、返事はない。一方通行だ。
それが悲しくなって、私は真っ暗な部屋の中でスマートフォンを見た。勢いで霜馬のチャット画面を開く。
《行くよ》
短い一言。それだけ送って、部屋の電気をつけた。グループにもスタンプを送った。
たったそれだけなのに、どっと疲れが出た。立つのも辛い。
忘れたと思っていたのに。
呪いみたいにまたあの感情が私の体にまとわりつく。あの頃の私に戻った気がした。
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