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「嘘、普段もうちょっと元気」
「疲れてるだけじゃないかな」
「なんで認めないの」
今日、愛犬が息を引き取った。老犬だったし、いつ天国に逝ってもおかしくない状況だった。そして今日、ついに旅立ったのだ。
それを母からのチャットで知って、だから元気がないのである。
でも誰にも気づかれていないと思った。いつも通り笑えていると思った。
「俺の目は誤魔化せへんよ。どんだけ一緒におると思ってんねん」
「おーい、勝手に彼氏気取りすんな」
「しとらんわっ!」
霜馬が私の髪の毛をぐしゃぐしゃとした。
「やめてよー!」
霜馬が私の髪の毛をさらにぐしゃぐしゃにした。綺麗に整えた髪の毛があっという間にボサボサヘアーに大変身してしまった。
私が手櫛で髪の毛を直すと、遠くから他の同期たちがこちらを見て笑っているのが聞こえてきた。
霜馬はやっと二人っきりの状態では無くなったことに気が付いて、パッと手を離す。
大学の最寄り駅に着いたのだ。そろそろ電車もやってくる。
仲良いなー。何やってんだよー。そんな声が聞こえてきた。
霜馬は私から離れて友達の方に近づいた。二人の世界じゃなくなった瞬間。
それが少し寂しいと思った。けれど無視した。気づかないフリをした。
気づいてしまったら。認めてしまったら。すべてが崩れていく。
サークル内での恋愛は禁止。これは私が勝手に自分に課したルールだ。
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