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《もうそろそろでお店着く!》
そう連絡して、早足でみんなが集まる居酒屋に向かった。今日も今日とて残業があって、約束の時間に大幅に遅れての到着だった。
すぐにリーダーの既読がついて《はーい!》と返信が来る。
目的の居酒屋の看板が見えて、私は小走りした。
引き戸に手を伸ばすと、それよりも先にガラガラと引き戸が開いた。中からスーツ姿の男が出てきた。
私はぶつかりそうになる寸前で立ち止まる。
「あ、すみませ──」
「ん」の声が、口からぽとりと音もたてずに落ちた。
真っ黒なサラサラのストレートヘアーに、ぱっちりとした目。右目の下にある小さなほくろ。
変わらない姿にあの日の記憶がぶわっと蘇る。
「霜馬……」
「久しぶり、菜月」
落ち着いた声で私の名前を呼ぶ。優しい瞳で私を見つめる。
あの時みたいに瞳に傷はない。もう完治しているようだった。
「そろそろ来るかなって思って出てきたんやけど、遅かったな」
霜馬が私を中に入れた。「こっち」と言って先導してくれた。
どうやら個室のようで、幾つも同じような部屋があった。道を覚えないと忘れてしまいそうだ。
「あれ、どこやったっけ」
案の定、霜馬も忘れてしまったらしい。困ったように辺りを見渡した。
それから私を見て「俺カッコ悪いな」と笑った。
「ここはスマートに案内したかったなぁ」
私がくすくす笑うと「笑わんといてやー」と霜馬が恥ずかしそうにした。
「待って、連絡するから」
霜馬はリーダーに直接チャットを送ると、すぐに少し離れた場所でリーダーが顔を覗かせた。サラサラストレートヘアーだったリーダーの髪は、少しパーマがかかっていた。
「あ、菜月!! うわっ、変わってねー。久しぶり!」
私たちは個室の中に入ると、久々に面々と再会した。
容姿がガラリと変わっているということはなかったけれど、みんな確実に大人になっていた。
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