前後不覚

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『はい、メイク完成! ブスがようやく人権を取り戻しましたあ』  それは、コスプレイヤーのお姉さんが、親しみやすさを演出するために、あえて自虐的に発した一言だったと思う。きっと、誰かを傷つけようという意図はなかった。  でも、わたしは思ってしまう。  お姉さんのレベルで「人権」がないなら、わたしってそこらの虫以下? 「残酷すぎる……」 ※  高校の最寄り駅まであと一駅というところで、わたしは気分が悪くなって、その電車から駆け降りた。普段は車酔いなんて、しないんだけど……。  学校に行くはずの足で、馴染みのない駅前をあてもなくうろつく。  気分が悪さが消えない。  吸い寄せられるように、駅前ロータリーのバス停のベンチに座るわたし。 「……帰ろう」  そうするしかないと思ったのは、目の前にとまったバスの乗降口に、ひどい顔の虚像が映ったときである。またこの顔だ。自分の顔からは、どこへ行っても逃げられない。  わたしはぼんやりと思う。  とりあえずてから、どうするか考えよう……。  駅前のコンビニに駆け込み、マスクを買う。顔の下半分が隠れると、気持ちが大分楽になった。
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