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今朝も響くその声はまるで呪詛である。
「スマホノモッケ!」
「げ……」
一番線ホームに入ってきた電車のドアが開くなり、お兄さんと目が合い、わたしは反射的に身を翻した。
――なんで、また。
今日のわたしは、昨日までとは違うはずだった。朝からメイクをしてヘアアイロンと格闘して、人間の尊厳をきちんと装備してきたのだから。
それでも、お兄さんにたやすく正体を見破られてしまうのだった。
結局、わたしはわたしでしかないんだ。
認めたくない事実を振り払うように、乗ろうとしていた電車から背を向け走る。
折よく反対側のホームに電車が到着する。学校とは逆へ向かう、上り線。
吸い込まれるように、わたしの足は車内に踏み入った。
「閉まるドアにご注意下さい……」
車内はいつもの電車より混み合っている。
扉の前に立ち、流れていく景色を横目にスマホを操るわたし。
無料動画サイトのフリー音楽を適当にピックアップして再生しながら、月野宛のメッセージの履歴を眺めていると……
「これ……昨日は見つからなかったのに」
どういうわけか、謎の人物・刹那まほとのメールの続きが不意に見つかったのだ。
首をひねりながらも、メッセージを読み進める。
つきの『お金を作る方法って、例えば何?』
月野のメールに対し、まほは、とんでもないメールを返していた。
刹那まほ『オススメは、ただ車の前に飛び込む方法』
つきの『なにそれ』
刹那まほ『そのままの意味。歩いて当たるのがポイント。こちらの過失をゼロにするため信号が変わるギリギリがベター。狙い目は法人の車。会社は企業イメージを落とすわけにはいかないから』
つきの『保険金目当てってこと? そんなに上手くいく?』
刹那まほ『これで三回稼いだ友達を知ってる』
「いやいや、だめでしょ」
小声でツッコミを入れる。
月野は馬鹿だな。こんなやばい提案をしてくるやつと付き合ったりして……。
呆れると同時に、そこまで追い詰められていたのか、という気持ちも湧く。
電車がトンネルに入り、わたしはふと、スマホから顔をあげる。車窓がわたしの全身を映していた。
「えっ……?」
わたしは目を見開く。
自分が月野の制服を着ていたからだ。
だから、わたしは思いついた。
「……月野の学校に行こう」
月野の辿ったルートを追うことで、なにか新しい気づきがあるかもしれない。
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