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月野の通う私立△△高校は●市●区にあるらしいが、そこまでの道順をわたしは知らない。
わたしは、スマートフォンのナビに住所を打ち込むと、アスファルトを進み始めた。
『交差点を右折します』
『十メートル直進します』
『横断歩道を渡ります』
無機質な音声が逐一説明してくれる。でも、途中からそれはただのBGMと成り果てた。先を歩く月野と同じ制服達が、わたしの道しるべとなったからだ。
何食わぬ顔で制服の群れに混ざると、月野そのものに成り代わったような気分になった。
『その先、左折します』
同じ制服が直進していく中、スマートフォンが確かにそう言った。
「へ、左?」
指定の方向を見ると、両側から民家が迫る、薄暗い細道である。
――近道なのかな?
首を傾げたのと同時に、背中に声がかかる。
「里中さん――?」
振り返ると、同じ制服の女子生徒が驚いた顔でこちらを見つめていた。
里中さん、はわたしのことじゃなく、当然、月野のことだろう。
月野のクラスメイト?
でも、わたしにとっては、名前もわからない赤の他人である。
わたしは今更ながら思い至る。月野じゃないのに、月野のふりして学校に行って、わたしは一体どうするつもりなんだ……?
「え、ちょ、里中さん?」
わたしは逃げるように、薄暗い細道へと駆け出していた。
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