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月野の学校に居場所はない。けれども今のわたしに他の行く当てなんかあるはずもない。スマートフォンのナビゲーターは蜘蛛の糸さながらの、よすがとなった。
『次の交差点を左折します』
『神社脇の大きな楠の下を通過します』
『パチンコ屋地下駐車場の従業員ゲートをくぐります』
『塀の上の野良猫を起こさないように通り過ぎます』
スマートフォンの声に従い、わたしは見知らぬ町を駆ける。神社の楠は風を孕んでざわめき、駐車場ではクラクションが飛び交い、野良猫は髭を震わせた。
道行く人の誰もが、それぞれ確固たる目的地を持っているように、迷いなくその足を運んでいる。迷っているのは、わたしだけ。
居心地の悪さを燃料にわたしは走り続ける。息があがり、制服の下で汗が滲んだ。
『商店街を振り返らずに直進します』
昭和の時代から時を止めたようなアーケード街を抜けると、すっと視界が拓け、国道へ出た。
車道を鉄の塊が行き交う。
信号が変わり、それらは規律よく停車した。
横断歩道を前にして、ナビゲーターが沈黙した。不思議に思い、汗でじっとりと湿った指でスマートフォンを操作する。
「えっ」
操作を誤ったのだろうか。開いた覚えのないニュースサイトがディスプレイに表示された。
わたしの両目が無機質な文章を追いかける。
『東京都の女子高生、自宅マンションから飛び降りる――自殺か』
「え……」
渦中の女子高生の顔写真に見覚えがあった。
名前こそ違うが、それは紛れもなく『まよぴ』だった。目の下には隈が浮かび、前髪はおでこにはりつき、鼻の頭が脂で光っていたが、世界への疑惑に満ちた瞳が、アイコンのまよぴそのものだった……。
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