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新聞記事を斜め読みする。
現場となったマンションの一室には、遺書らしきメモが残されていたらしい。
理想の姿を手に入れ、人生を謳歌していた彼女を、死に至らせたのは何か。記事には、整形手術の果てに少女が得たのは偽りの幸せ、と書いてあった。
「おわっ……」
またしても操作を誤ったのか、スマホの画面が、無料動画サイトへと突然切り替わった。
「え、何?」
画面の中に、まよぴが佇んでいた。
動画のまよぴはやっぱり人形のように可愛い。
『――私は完璧』
精巧な唇が、意外と低めの声で呟いた。
『でも、人は私を作りものと言う。どれだけ綺麗でも所詮は偽物だと罵る。じゃあ、本物の美しさって何? どれだけ努力したら、私は認めてもらえる?』
まよぴは口もとをゆがませて、皮肉な笑みを浮かべた。彼女の背後には、ベランダの欄干が見える。
わたしは、嫌な予感がした。
まよぴの声に、棘が滲んでいく。
『お金と時間をどれだけ尽くしても、足りない、足りない。全然足りない。結局、こんな欠陥品――』
これってもしかして、飛び降りの、実況中継……
『消えちゃえってことでしょ?』
あ、とわたしはつぶやきを漏らす。まよぴが欄干の向こうに消えた。
長い髪がくすんだ空に軌道を残す。遠くで、大きなものがアスファルトに叩きつけられる、嫌な音がした。
完璧な少女が、不完全を嘆いて、この世から消えた――
『横断歩道を直進します』
「……っ」
誰もいなくなったベランダを映し続ける動画を、無機質なナビゲーション音声とポップアップが遮った。
現実に引き戻されるわたし。
はっとして、スマートフォンから顔をあげると、ちょうど信号が青から赤に変わるところだった。
「……えっ?」
わたしは目を擦る。
横断歩道の向こうでまよぴが、月野が、手招きをしていた。
幻覚だ……。
でも、なんて、リアルなんだろう。
彼女たちは囁く。
みじめでみっともない私達は、生きているべきではない。
どう努力したって、生まれ持った平凡すぎるステータスは、一生ついて回るのだ。
私達には祝福は訪れないのだ、希望を持つなこっちへおいでと――
『ここで車体の前に飛び込みます』
ナビの冷たい声。
『今です』
わたしはふらりと、鉄の塊の前へ、足を踏み出した。
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