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ウィークエンド
電車は木々の間を縫うように走り、せり出した葉っぱが車窓ぎりぎりに迫る。
車内は日曜日の弛緩した空気に包まれていた。私は母と姉といっしょにボックスシートに収まり、車窓から入り込む木漏れ日に照らされている。
隣町のキャリアショップで新しいスマートフォンを購入しに出かけた帰り道。
買い物の時は大抵、母の運転するボックスカーで町まで出るのだけど、今日はたまたま、ボックスカーが車検で不在だった。親と姉とで電車に乗るのは久しぶりで、なんだかくすぐったい。
手の中には買ったばかりのスマートフォン。
ホーム画面に並んだ見慣れたアイコンの中から、ピンクの髪の女の子のアイコンをタップする。最近始めたばかりのアプリゲーム、解放スターファンタジア。いつもの画面だけど、指紋一つないディスプレイに触るのはちょっと緊張する。
「……あれ?」
私は首を傾げた。操作キャラクター達のレベルが微妙に上がっている気がする。
もしやと思い隣を見ると、星野がにやりと笑った。
星野は私の双子の姉。
オーバーサイズ気味のシャツとジーンズにサンダル。おおらかな性格を表すようなファッションセンス。脚を組み、背もたれに深く沈んで、鼻歌を漏らして、まるで自宅にいるかのようにくつろいでいた。星野のこういうふてぶてしいところ、嫌いじゃない。
電車がトンネルに入り、スイッチが切り替わるように車内は明度を落とした。
鏡になった車窓に私の姿が映る。左脚をギブスで固定し、傍らに松葉杖。フルメイクに髪をゆるく巻き、韓国ライクのファッションに身を包んだ私の姿に、それらのアイテムは不釣り合いに見えた。
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