10人が本棚に入れています
本棚に追加
そう――一週間前、私は交通事故に遭った。
厳密には、交通事故を起こした、というのが正しいのかもしれなかった。私は、自分の意思で走るトラックの前に飛び出したのだ。
トラックの運転手さんには悪いことをしたと思う。病室に謝罪に来た白髪交じりの彼にどんな顔をしたらよかったのか、今でもわからない。
だけども、あの時の追い詰められていた私には、そうする以外の選択肢が見つからなかった。コンプレックスから解放されたい一心での、苦渋の決断だった。
事故の後、現実に戻ることを拒むように眠り続けた私を起こしたのは、星野だった。
夢の中、星野がトラックに飛び込むのを見た私は、飛び起き、ギブスの脚でその交差点へ走った。大人ならば、ただの夢を現実と混同するなんてと笑い飛ばすだろう。でも私は危機感にいてもたっても居られなくて、病院着のまま走った。私がトラックにぶつかった交差点へ。
――その時、星野は私だった。
ふと思い立って、アプリゲームを一旦閉じ、短文投稿型SNSを開いた。
「あれえ……おかしいな?」
何度も何度も、画面をスワイプするけど、見当たらない。
お気に入り登録をしているユーザーの中にまよぴの名前がない。
検索をかけても、アカウントが見つからないどころか、まよぴを話題にしている人もひとりもいない……。
「そんなばかな……」
まよぴは、皆に注目されてるインフルエンサーのはず。
エラーを疑った私は、念のため、スマホ内の別の機能を確認してみる。すると、一部の相手とのメールのやりとりも、ごっそり消えていた。
消えていたのは、ネットで知り合った友達とのやりとり。ここのところ、私の相談によく乗ってくれていた、刹那まほのも。アドレスごと綺麗に消失してしまった。
「いなくなっちゃった――まよぴも、刹那まほも」
困惑のあまり、私は呟く。
「そのことだけどさ」
星野がスマートフォンから顔を上げてこっちを見た。珍しくまじめな顔。
「まよぴの投身自殺のニュースも、検索したけど一件もヒットしないんだ」
星野は、私が意識を失っている間、私のスマートフォンを使っていたらしい。その間に、まよぴと刹那まほのことを知ったんだと彼女は言う。プライバシーが踏みにじられたみたいで、ちょっとやだなと思ったけど、それはいったん置いておく。
星野の見せてきたディスプレイには、ニュースサイトが映っていた。検索エンジンに『東京都 女子高生 投身自殺』と入れられているけれど、確かにそれらしい記事はヒットしていない。
「まよぴは、存在してないの?」
「そのようだね」
「この前まで確かにいたのに。これって、どういうことなんだろ?」
星野は真剣な顔でいった。
「……スマホノモッケ、じゃないかな」
「え?」
「スマートフォンに、住むおばけ」
最初のコメントを投稿しよう!