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そのアニメの主人公の担当声優に、スマートフォンを買った当時の月野は、熱を上げていたのではなかったか。
わたしは手を挙げる。
「ヘイ四季、デコイファミリーの主人公声優の誕生日を教えて」
「ええっ、そんな、siriに頼むみたいに!?」
非難しながらも、早速グーグル先生で調べてくれるやさしい四季。
「五月二十二日だって」
「サンクス」
ゼロ・ゼロ・ゼロ・ゴ・ニイ・ニイ……
順に打ち込むと――ビンゴ。
スマホのロックはじつにあっさりと解除された。
我が妹ながら単純すぎるぞ、月野。
しかしおかげで、通学時間中退屈しないですみそうだ。ミス・単細胞カメレオンに感謝の念を送る。
とはいえ、見慣れないアプリのアイコンが並ぶホーム画面は、思った以上に他人行儀だ。
カメラアプリ、スケジュール共有アプリに、チュンスタグラム、ティップトップ。人差し指が迷子になる。だって、触るとこないよ……。
途方に暮れていると、『それ』が両の目に飛び込んできた。
親の顔より見た、ピンクの髪のアニメキャラのアイコン。
「解スタじゃん!」
思わずわたしは叫んだ。
また斜め前のスーツと目が合ったけど気にしない。
解放スターファンタジア。
この春始まったばかりの無料RPGアプリ。作り込まれた世界観に、奥深いストーリー、魅力的な登場キャラクター、ハイクオリティなゲームシステム。文句のつけどころのない神ゲーである。
『解スタ発見! やってるなら教えてくれればよかったのに』
メッセージアプリを開き、わたしのID――つまり月野宛てにメッセージを送る。
既読は着かない。
それもそうか。多分月野は、わたしのパスコードを見破れない。今頃、反対側の電車の中で、スマホのロック画面と格闘していることだろう。
暇つぶしに、解スタを起動する。
見慣れたオープニング映像。ログインすると、慣れ親しんだ解スタの世界が小さな画面いっぱいに展開された。
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