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不穏な報せ
一時間目は気だるい。
二時間目も三時間目も気だるいが、一時間目の気だるさは格別だと思う。何せ、このあと二時間目と三時間目と四時間目と――以下略――が控えおろうしているのだ。一時間目は月曜日と似ている。
教室内には、美声と名高いおじいちゃん先生の、英文を読みあげる声が響いている。
もうやめてくれ。
おじいちゃんらしからぬハリのあるバリトンが、もはや子守歌にしか聞こえない。
「……!」
船を漕ぐわたしを、スマホのバイブが揺さぶり起こした。
やばい、スカートのポケットに入れっぱなしになってた。
机の下でディスプレイを盗み見ると、『お母さん』からの着信だ。
月野のお母さんなので必然的にそれはわたしのお母さんでもある。
さては月野、お弁当でも忘れたか?
にしても、普通、こんな時間に電話なんて掛けるだろうか。娘の授業中だぞ。
当然電話を取るわけにもいかず、放置していると、その後も、狂ったようにスマホは震え続ける。
画面にはやっぱり『お母さん』。
疑問は胸騒ぎに変わってくる。
気づけば、眠気はどこかに吹き飛んでいた。
一時間目が終わり、教室にざわめきが完全復活した頃、担任である国語教師が廊下の窓から手招きしてきた。
「――里中さん、ちょっといい?」
妙な胸騒ぎを感じつつ、それでもどこか楽観していたわたしに、担任教師はとある事実を突きつけた。
「お母さんから学校に連絡があって、妹さんがトラックに撥ねられたって……」
「え?」
わたしは鞄をまとめ、早退することになった。
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