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「全治一カ月だって。左脚の骨を二か所折っているらしい」
「……なんだ」
病院に着き、待合室でお母さんと合流するなり、告げられたのはそんな内容だった。
「あんたね、なんだって何よ」
お母さんが眉を寄せた。
わたしは、わざと茶化してみせる。
「死んだかと思ったよ」
「やめてよ、縁起でもない」
「担任が、トラックに撥ねられたなんて言うからさ」
警察の人が言うには、月野は衝突時の勢いで数メートル先に飛ばされたようだが、それが却ってよかったらしい。
「どうも飛んだ先が植木だったみたいよ」
「丈夫だな」
「……でもね」
わたしがふざけると、お母さんが顔を曇らせた。
「目撃した人が言うには、自分からトラックに飛び込んだらしいの、月野」
「……あ?」
変な声が出てしまった。
「それ、月野は何て?」
「それがまだ聞けてない。病院に運ばれてからずっと、眠っちゃってるのよ。お医者様いわく、身体を打ったショックがあるから、しばらくは意識がぼんやりするかもと。落ち着くまでは、ちょっと聞きにくいね」
「だね……」
月野の人生は順風満帆という感じに見えたが。
「顔だけ見たら、あんたは戻っていいよ。頭を打っていないか検査するため、一晩は入院になるって話だったから、あたしは月野に付き添うつもり。お父さんには伝えてあるけど、まだ出張先だから、今日は来れなさそう」
「ん……」
「悪いけど、夕飯は勝手に食べて」
こんなときでも夕飯のことを心配するお母さんは、いつものお母さんだったが、その足元をよく見ると左右で靴下の色が違った。指摘すると、「やだ、気付かなかった」と顔を赤くした。
「慌てて出て来たから、取り違えたんだわ」
――取り違えたといえば。
スマートフォンのことを連想したわたしは、月野とスマホを取り違え中であることをお母さんに伝えた。
お母さんは、目を丸くした。
「やだ、うっかり屋。一体、誰に似たの?」
「不本意だが、あなただ」
「……ということは、事故で全壊したのは、あんたのスマホか」
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