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「え、今なんて?」
衝撃発言に耳を疑うわたし。お母さんがなだめるように付け加えた。
「衝突後車道内に飛んで、車に轢かれてペシャンコになったと警察が言ってた。今は警察署にあるよ。まあ、月野自身がそうならなくて、よかったじゃない」
「そりゃあまあ、そうだけど」
ショックが大きい。
わがまま言って買ってもらった最新型のスマートフォン。わたしの相棒……。人生ではじめてのスマホなのに。
スマホ本体が死んだところでデータはバックアップがあるから大丈夫だと思うが、寝食をともにした個体はあいつだけだった。妙な感傷に浸る。
――というか、友達との連絡とか、どうしよう。
「まあ、週末にでもキャリアショップに行くとして。とりあえず今日は、月野のを使うだね」
お母さんの提案に不承不承頷く。
解スタのレベル、フレンドに大きく突き放されるのは確実だな、とどこか他人事のように思った。
病院を出たのはお昼前。
品行方正な人間ならば学校に戻るところだろうが、わたしはそう真面目でも勉強熱心でもない。迷うことなく病院から自宅に直帰した。妹が事故に遭ったのだ。休んでも何も言われまい。
帰宅前のわたしは、帰ったらプレステ5で思う存分遊び倒そうとウキウキ画策していたが、実際テレビに向かうとやけに気が散ってしまい、いつもなら余裕で倒せるザコ敵相手に悪戦苦闘する始末。
「だああ!」
面倒になってコントローラーを放り出す。
『自分から飛び込んだらしいの、月野』
ゲーム画面を切ると、頭に浮かんでくるのは月野のことだ。
月野は、一体なぜ。
わたしはすがるようにスマホを手に取った。
この小さな四角い機械は、持主の心の在りようを、鏡のように映すアイテムだ。病院で眠り続ける月野の代わりに、スマホはわたしに月野の本心を見せるだろう。
月野は今、わたしの知らない人間関係に生きている。例えば、月野が学校のことで悩んでいたとしても、わたしには多分、察知できない。
スマホの中に――例えばチュンスタグラムの投稿に、友達とのやりとりに、動画サイトのお気に入り一覧に、検索エンジンの履歴に――彼女の本心の形跡がある。
――だからって、勝手に覗くのはプライバシーの侵害だよな。
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