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星野と月野
「――おっかしいなぁ」
スマートフォンのロック画面と向き合うこと、かれこれ三分。
フェイスIDも、パスワードも弾かれてしまう。
もしかして、故障?
なにかのウイルスに感染したとか?
「……最悪」
わたしのため息は、電車が揺れる音に掻き消された。
学校の最寄り駅まで、あと三十分。
スマートフォンが使えなきゃ、音楽も聴けないし、メッセージも返せない。
一番重要なのは、わたしがここ最近ハマってるアプリゲームが出来ないこと。くそっ、フレンドにレベル置いてかれる。アプリゲームって毎日の積み重ねが大事なんだよな、現実以上に。
もう一度ため息。
――始まる前から終了だ、今日。
「本日終了のお知らせ!」
叫ぶように言ってみたら、斜め前の会社員風の男の人が怯えた目でこっちを見た。
電車は木々の間を縫うように走り、せり出した葉っぱが車窓ぎりぎりに迫る。細く開いた窓から、ぬるい風と一緒に葉っぱが一枚、隣の座席に舞い降りた。
葉っぱの着地は、私にひとつの結論を閃かせた。
「――ああ、これ、月野のなんだ」
スマートフォンのロックが解除できないのは、私のじゃあないからだった。今朝、慌てて家を出たから、取り違えたんだ。
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