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05.王子は確かめる※
「なるほど、婚約者…か」
ノアは口元を手で覆って微かに笑った。
それは喜びや楽しい気持ちというよりは、自嘲的な笑みで、彼が私との関係をあまり快く思っていないことが透けて見えた。
「ウィリアムが言うには、俺は相当君に心を許していたみたいだね」
「どうでしょう。私の口からは何とも言えません……」
「寝室まで一緒だったんだ、少なくとも警戒はしていない」
「そうだと嬉しいです」
なんとも返答に困る。
心を許しているどころか、以前のノアは私にかなりベッタリだったのだ。しかし、そんなことを自分の口から話すなんて出来るわけがない。
気まずい空気に耐えられず、部屋を出て行こうとしたところグッと腕を引かれた。
「……どうされましたか?」
「試してみようか」
「え?」
「どれくらい君のこと好きだったか、思い出せるかも」
ふらりと立ち上がったノアが私の肩に手を置く。
胸元に掛かった髪を背中に流して、露わになった素肌に唇を落とした。抵抗するために押し出した両方の手首をノアの右手が掴み、いとも容易くベッドの上に組み敷かれる。
いつものノアと違ってニコリともしない顔で、私の着ていたシャツを脱がす。煩わしそうに下着を外す姿を見て、やはりノアではない他の誰かを目にしている気分に陥った。
「……っんぅ、あ」
口の中で転がされると胸の突起はジンジンと痺れるような甘い痛みを発する。これから与えられる刺激を思うと、身体の奥が溶けてしまいそうだった。
ノアの手がゆるく私の太腿を撫でて、ショーツの隙間から確かめるように秘部をなぞる。期待したように水気を帯びていることは分かっていたから、思わず羞恥で顔を背けた。
「すごく濡れてるね。いつもこうなの?」
「ごめんなさい、」
「どんな風に触られてた?」
「……どんな?」
「うん。分からないからやって見せてよ」
言いながら私の手を取って、そこへ当てがう。
「……な、何を言ってるんですか!」
「本気なんだけどな。何か思い出せるきっかけになるかもしれないし、気楽にやってくれたら助かる」
「………っ」
「ねえ、リゼッタ。俺の力になるんでしょう?」
綺麗な悪魔に唆されて、私は困惑したまま指を少し挿入して見せる。ノアはベッドの上で胡座をかいて食い入るようにその様子を見つめていた。
「その程度?そんなんで君は十分なの?」
「ノア…もう嫌、」
「もっと触って、まだ足りなさそうだよ」
「やだっ…!恥ずかしい…」
泣きそうになって指を抜くと、ノアは苛々した様子で再び私をベッドに押し倒した。
言葉を発する間も無く、荒いキスで口を塞がれる。必死になって応えているとグイッと脚を開かれて、硬くなったものが中に侵入してきた。
「ーーーっん!」
「身体の方は覚えてるみたいだね、」
最奥を突かれてすぐに達してしまった私を見て笑う。
「あ、待って、そこ押しちゃダメ…!」
「なんで?もっと締まってるよ」
「っひぁ、」
弾くように指で陰核を触られると身体が大きく震えた。ビシャビシャになったシーツの上で、息をするだけでやっとの状態の私をノアは見下ろす。
「なんか味気ないね。こんなもんか」
「……え?」
「いやぁ、婚約者って言うからさぞかし楽しませてくれるのかと思ってたからさ」
正直ガッカリだ、と呟くように言うと、動きを速めた。投げやりなその態度と冷めた言動に私は気持ちが付いて行かないまま身体を揺さぶられる。時折思い出したようにキスをされて、舌を吸われても、ノアを落胆させてしまったという事実はずっと頭の中で重たく漂っていた。
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