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62.リゼッタは見下ろす
「ノア!また生き返ったか…!」
国王オリオンは珍しく正装をしていて、見慣れた普段の全裸に腰布スタイルから程遠いその姿に私は少し笑った。
口ではどんなに厳しい言葉を言おうとも、やはり息子のことは可愛いようで、ノアの背中をバンバン叩きながら抱き締めている。マリソンもその隣で静かに微笑んでいた。
「午後からの会見に僕も出させてください」
「……なんだと?」
オリオンは驚いたようにノアから身体を離して問い掛ける。
「僕はもう十分逃げました。反王党派でなくても、国民の中には姿をくらます王子に疑問や反感を抱いている者は少なくないはずです」
「しかし…あまりに突然で、」
「なんとか、自分の口から伝えたいのです」
「………そうか」
マリソンと目を見合わせて、オリオンは渋々頷いた。
護衛が配置されるとは言えども、そのような場に怪我人のノアが出向いて良いものか私は心配だった。けれども、ノアの意思はどうやら堅いようで、着替えると言うのでその後を追う。
廊下を歩きながら、私は夏が終わろうとしていることを窓の外に見える庭の様子から知った。秋になったら何をしよう。随分と色々なことがあったせいで、とても長い時間が経ったような気がしていた。
「会見で銃殺されちゃったりして」
使用人が持って来た服に腕を通しながら、笑えない冗談を飛ばすノアを睨んだ。白を基調としたアルカディアの伝統的な衣装は、彼にとてもよく似合う。
「真面目に話してください、ノア」
「俺はいつだって真面目だよ。君が婚約破棄を取り消してくれたから、もう今世に悔いはないや」
「こんな形で死なれたら私は悔いしか残りません…」
呆れて溜め息を吐いた。
ヴィラが用意してくれたドレスに着替えるために、私も一旦部屋に戻ることにした。ソファに腰を降ろすノアに伝えて部屋を去ろうとすると、グイッと手を引かれる。
「……さっき、病室で何て言われたの?」
「ああ。ヴィラですか?」
入れ違いで去って行った彼女が私に耳打ちしたことを言っているのだろう。相変わらず、人の一挙手一投足をよく見ている彼の洞察力に感心した。
「ノアに心を許さないようにって」
「……は?」
「甘い言葉を囁かれても、手を握られても、私は貴方のペースに巻き込まれてはダメですから」
「手厳しいな…それだけの事をしてるから何も言えないけど」
ノアは頭の後ろで手を組んで目を閉じた。
その背に回り込んで上から見下ろす。警戒心からか、パッと開かれた赤い瞳を静かに覗き込んだ。首筋に手を這わすとノアの肩が少し揺れたのが分かった。
「貴方の優位に立てるなんて光栄だわ」
柔らかく微笑んで唇を重ねる。心も身体も、簡単に許してはいけない。欲しい時は自分から。
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