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「曜子さん、私ね……そろそろ行こうかなって思うんだ」
「行くって、天国に?」
「うん。この世界は明るくなりすぎた。私の居場所はもうどこにもない」
「そっか。うん、いいんじゃないかな? きっとここより楽しいよ」
「私ね、全部が恨めしくて仕方なかった。私をこんな顔にして殺した人も、普通に生きてる人も。だから色んな人を脅かしてきた。でも本当は、そんなことをしても意味がないってわかってた。私はただ、寂しさを紛らわせたかった。構ってもらいたかった。私が生まれてよかったって誰かに思われたかった。曜子さんが気づかせてくれたの。恨みでいっぱいだった私の心は、曜子さんが呼んでくれる楽しみで満たされた。だからもう、いいの。この十年間、私を呼んでくれる人は誰一人としていなかったけど、不思議と寂しくなかった。曜子さんのことを考えるだけで、胸が満たされたから」
「そうだったんだ。なんだか嬉しい。花子さんにそんな風に思ってもらえて」
でも天国にいくにしても、このままじゃあんまりだ。私はショルダーバッグを開けて、化粧ポーチを取り出した。
「何をするの?」
「お祝いの日だもの。めいっぱいおめかししなきゃ」
「私、死んでるのに」
「死んだ人も化粧はするんだよ」
「死に化粧のこと?」
「そう。よかった、コンシーラーも持ってきてある。きっと痣も綺麗に隠せると思うよ」
たっぷりめにコンシーラーを痣に塗り込んで、綺麗な肌と色のトーンを合わせる。それからファンデーションを塗って、粉をはたいた。ベースメイクを教えてくれた友達に感謝しなくちゃ。大人になると、こんな過去の傷だって隠せるようになる。
「所詮は素人の化粧だけど、どうかな?」
「わぁ……!」
鏡に映った自分を見て、花子さんは目をキラキラと輝かせた。なんて可愛らしい顔。私が大好きだったおひな様と同じくらい綺麗だ。きっと生きてた頃は近所でも評判の美少女だった。これだけ可愛らしいからこそ襲われたとも言えるんだろうけど……。
「綺麗だよ、花子さん」
「うん。ありがとう、曜子さん」
花子さんは満面の笑みを浮かべていた。もう伝説の怪異として語られてきた恐ろしさはどこにもない。普通の女の子だ。
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