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ポウ、ポウ。
天国が迎えの門を開いたのか、どこからともなく光が差し、花子さんの姿が風に吹かれる綿毛のようにほどけていく。花子さんはすっかり大きくなった私の手を握って、大きな瞳で見上げてきた。
「世界が変わっても、歳を取っても、私達ずっと友達よ?」
「うん。ずっと友達」
「天国で見守ってるわ。私の分まで長生きしてね」
「うん。土産話を沢山用意して、追いかける」
花子さんの姿が完全に光になって消えていく。私の手の中にあった柔らかな感触も、終わりを告げるように離れていった。
「さようなら、花子さん」
ショルダーバッグからお清めの塩を出してさっと振りまく。悪い霊にとりつかれないようにいつも持ち歩いてるものだった。悪霊にとっては毒でも、成仏を決意した霊にとっては心地よい追い風になるはず。
ピッと電子音がして、開いたままだった便座の蓋が閉じた。どうやら私のことは感知しているけど、所定のすぎたから自動的に閉じたらしい。私は便座の蓋の上にそのまま腰掛けた。蓋越しでも、便座が温かいのがわかる。
「本当に明るくて居心地のいいトイレね。こんな場所にいたら、悲しいことも吹き飛びそう」
これから先、技術の進歩によって様々な怪奇現象が科学的な事象に置き換えられていくだろう。願わくは、居場所を追いやられた怪異達の最期が悲しいものではないように。
目を閉じ、花子さんが過ごした百有余年に思いを馳せる。いつか訪れる最後までしっかり生きようと決意して、私は眩しいほど明るいトイレから出ていった。
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