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会うたびに
いつ会う、なんて約束はしていない。
バーに飲みに行き、会えば一緒に飲んでいただけ。
と言っても、まだ二回しか一緒に飲んでいないし、その二回ともセックスをした。
思い返すと、火曜日と金曜日に来てるなと気付く。
それに合わせて行く俺はどうかしてると思ったけど、久し振りだった、こんな、よく分からない気持ちに心が躍ったのは。
「ごめんごめん、遅くなった」
いきなりそんなことを言いながら店に入ってきたヒロ。
別に約束なんてしていないから、キョトンとした顔をすると、ヒロが吹き出して笑い出した。
「馬鹿だな、俺。約束なんてしてないのに、勝手にしてる気になってた」
そんな素直に正直に言って笑うから、俺だって可笑しくて、可愛くて、顔を綻ばせてヒロをジッと見てしまう。
「…… そんなに見ないでくれ、君と約束をしていると勘違いしてしまったんだ、恥ずかしい」
頬を赤らめ、上目遣いでチラッチラッと俺を見る仕草が可愛い。
バーでは色々と話しをした。
それでも素性は明かさないヒロ、名前だって『広瀬』としかいまだに知らない。
── お互いのことを明かすのは名前だけにしよう
最初にそう言ったのはヒロ。
映画の話しや音楽の話し、食べ物や飲み物、そんな話題で盛り上がれた俺たち。話しの中から何か身上が知れるんじゃないかとか、探りながら話したけど全くもって分からない。
ただの飲み友達、そしてまた、セフレ、か…… 、
なんて思って、あまり入れ込まないようにしようと用心する。
セックスは四度目になる。
またもヒロがフロントに向かうから、俺が腕を掴んで止めた。
「今日は俺が払うから」
「…… いや、それは止めてくれ」
真剣な顔で断られて、それ以上押せない。
バーではあんなに可愛くて俺のことを気遣ってくれているのに、ホテルに一歩入ると主導権はヒロになっていた。
部屋に入るなりシャワーを浴びようとするヒロに、たまらずに声をかけた。
「あ、あの、さ…… 」
「ん? 」
「ちょっと…… 話しをしないか? 」
いつもすぐにセックス、とはいえ、そのために来ているから、間違いじゃない。
俺たちは恋人同士じゃないし。
まだ癒えていないような胸の傷が、チクッと痛んだ。
「何の? 」
真顔で訊かれて、返事に困った。
ああ、そうだよな、セックスをしに来てるんだもんな、自分の顔が引き攣っているのが分かる。
「あ、いや…… 参ったな」
ベッドに腰掛け、頭を掻いた俺。
「…… 申し訳ない、気が急いてしまって…… 早くムギが欲しくてこうなってしまう」
引き攣った俺の顔に気付いたか、ヒロが俺のすぐ隣りに腰を下ろして手を握った。
「ん…… いや…… 」
潤んだ瞳でジッと見つめられて、情けない…… 我慢できなくなったのは俺で、話しをしようと言ったのに押し倒して唇を塞いだ。
「準備をしないと…… 」
とろんとした顔で俺を見つめ、そんなことを言う。
準備?
なんのことだ?
眉間に皺を寄せて上からヒロをガン見する。
「準備って? 」
「…… 君を受け入れる…… 」
「受け入れる? 」
受け入れる、準備?
………… 。
なんだそれ、今さらヒロに訊けない。
とりあえず俺のプライド。
「ムギに…… 面倒をかけたくないんだ、準備をしていたのに、ムギは更に解してくれていた…… 」
解す? 何を?
さっぱり分からなくて、表情が硬くなり怖い顔になってしまっていたようだ。
「…… 気を悪くさせてしまったか? 」
怖くなっていたような俺の顔に、ヒロは不安気な顔をする。
「わ、悪くなんか、なってねぇよ」
とりあえずキスをした。
超高速回転で俺が受けていた時のことを思い返す。
そう言えば…… あれは前戯なんだと思っていた。
挿れる準備だったのか。
ふぅん、そうか、いつもしてもらっていたから初めて認識した。
めっちゃくちゃに、今さら。
だからヒロにも俺はしてた、前戯のつもりで。
そういえば、今までだってどうしてた? いきなり始まったことだってあったよな、と思い返す。
「ムギと会えた時は、事前に準備をしていたのだが、今日はまだできていないんだ…… 」
「準備を? どこで? 」
どこで、どう解すっていうんだよ。
「そんな恥ずかしいことを訊かないでくれ」
顔を真っ赤にして少し頬を膨らますと、拗ねたように横に背ける。
どこでどうやってるんだか、さっぱり分からなかったけど、真っ赤な顔のヒロが可愛すぎた。
どんな女よりも可愛い、たまらずにまたキスをしてしまう。
「…… だから…… ちょっと待っていてほしい…… 」
ためらいがちにそう言って、するりとベッドを抜け出すヒロ。
おあずけを食らって、しょんぼりとしてしまったのが自分で分かる、そんな俺を不憫に思ったか、
「…… 準備ができたら呼ぶから、そうしたら浴室に来てくれ」
ビクンと俺の股間が動いた。
会うたび俺は、ヒロに惹き込まれていく。
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