彩都と全校集会

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アヤメの時のように、皆に好かれるような低音ボイスを意識して話してみる。 画面越しでも伝わるほどの生徒さんの動揺。 職員の方々にも知らされていなかったんだろうか、職員席の机の上に置かれたカメラが動いて、画面が細かく揺れる。 美人さんも放送委員長を誰が担当するかまでは聞いていないらしく、目を丸くした。 『し、信じないぞ…!!』 誰かが強く言い放った。 強がりに見えるその主張は、他の生徒さんたちにも広がっていき、どんどん大きくなる。 『そうだ、そうだ!!』 『証拠を出せ!証拠!!』 ふむ。自分で言うのもなんだが、俺の声はそうそう真似できないはずなのだ。 だって声真似でもされたらこっちはあがったりなのである。 それでも、自分の認識を曲げたくないのが人間らしくていい。 (さて、どうやって証拠を示そうか…) 信じない人は放っておくのが一番なのだが、優にぃに発破をかけられては仕方がない。敦さんとも約束したしね。 それにこれぐらいで心が折れていたら、今まで活動者として活動できていないよ。 「じゃあ、今からアヤメの垢で呟くので、何かリクエストはありますか?」 一番シンプルで、一番納得できる方法だろう。 俺の自信満々の発言に、生徒さんたちは来まずそうに冷や汗を流している。 『そ、それじゃあ…』 一人。ポツリと呟いた男の子は、気弱そうにおずおずと発言した。 シン、とすぐにその場が静まり、その子の声がよく聞こえる。その子は、いきなりの静寂に居心地悪そうにしながらも口を開いた。 『にゃんにゃん……、とか』 「ふぁっ!?」 思わず変な声が出てしまう。イケボを心掛けていたのに、うっかり素の声が出てしまう。 それよりも。今この子はなんて言った?? 「え、えーっと…。それは新手のいじめ…ですか?」 俺は引き攣る口元を必死に動かしながらも問いかける。 イケボに声を戻す。素の声とか、あんまり聞かれたくない。てかこの状況で素の声出すとか無理。 何が悲しくて、男子高校生がメイド喫茶でメイドさんがするような行為をしなければならないんだ。 そういうのは百歩譲って可愛らしい君のような子がするべきだろ。今の俺はイケボで喋ってるんだぞ。さっき剥がれたけど。酷い要求に動揺して素の声出たけど。 いや、確かに呟くだけだ。その六文字を打ち込んで投稿するだけだ。うん。 けれど、俺はそんなキャラでもなければノリで黒歴史を作れるような陽キャでもないんだぞ。 リスナーさんがコメント欄で荒れる予想しかできない。 『あ、あと……』 続けてその子が思い出したように話した。 嫌な予感がする。なんだよ、“あと”って。まだ何かあるのか。 『ショタボで言いながら投稿してほしいです』 「君は馬鹿なのか???」
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