彩都とアヤメ

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優さんが帰省してたのは予想外だったけど。それでも、あやが高校に行くと言った時の方が、よほど驚いた。 しかもそれは、優さんと同じ所だという。 __俺は腐男子だ。もちろん王道学園も知っている。 優さんの行っている高校は、the王道学園といったような感じで、腐男子の憧れだ。 だけど俺はあやと一緒にいる方が何倍も好きだし、その学園に行っている同志から定期的に連絡をもらっているから大丈夫だ。 それがまさか… (あやが行くことになるとは……) あんな危険なところに行かせるなんて、何を考えているんだろうか。 …いや、優さんなら一人の生徒を完全に守るくらいなら簡単だ。 きっとあやが家にいて強盗に遭うより、学園で危ない目に遭うことの方がよほど可能性が低いだろう。 それほどに彼は絶大な権力を保持している。 だって、優さんは……いや、この話はまた今度でいいか。 とにかく、安全面では認めざるを得ない。 俺が反対なのは、あやがそのまま学園に行ってしまうと、もう会えないということ。 (__けど、俺も学園に行けば問題ないよね) 優さんがどんな感情をあやに抱いてるかはもう知ってる。 兄弟。血の繋がった家族。その重しが、優さんを縛りつけている。 よく分かるさ。 ……俺も、同じだから。 幼馴染。ずっと幼い頃から一緒で、お互いのことを何もかも知り尽くしているような、かけがえのない存在。 幼馴染や家族は、あやにとって一番仲の良く、一番“そういう対象”で見られない立場だ。 手を少し伸ばせば触れられるような存在でありながら、どれだけもがいてもその隣には行けないんだ。 そういう視点では、俺と優さんはよく似てる。だから俺は優さんの気持ちに気づくことができた。そして優さんも、俺に気持ちに気づいている。 (いつまでも、このままだと思ってた) こんな思い、断ち切った方が楽なのに、諦めきれないままズルズル引きずっていた。 だけど、その日の優さんはなんだかすっきりしていて。 普段、あやに軽いキスをしていたのは知っていた。許せないけど、あやはそれが当たり前だと思ってるし、あのキスを初めてとして感じていないようなので、まあ良しとする。 軽いキスを除いて、積極的に触れるなんて優さんはしなかったのに。 いつもより吹っ切れたように色気を醸し出している彼を見て、優さんの中で何かが変わったんだと、そう思った。 必死に堪えるようにしていた瞳も、今はとろりと甘い蜜で濡れているよう。 その口から出される言葉は、情欲を含んでいた。
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