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「それで、俺が生徒じゃないって…、どういうことですか?」
焦れて続きを急かすと、敦さんは「そうだね」と苦笑した。
「正確には、“この学園のどの立場でもない”って言うべきかな」
「どういうこと…ですか?」
純粋に疑問に思う。でも何か俺に問題がある訳ではないだろうことが分かって安心する。
胸を撫で下ろす俺を見て、敦さんはスッと目を細めて実に愉快そうにする。
「私は君のファンなんだ。そう、他の誰でもない〈アヤメ〉の、ね」
「……んえ?」
語られた言葉にピタリと体が硬直する。
なんだか情けない声が出た気がするが、それもどうだっていい。
あは、おかしいな。なんだか聞こえちゃいけない単語が聞こえた気がしたんだけど。
よし、忘れよう。
今のはただの空耳だったんd__ねえ敦さんちょっとやめて〈アヤメ〉の過去配信を流すのは。
(しかもよく見ると初配信じゃん…!!)
敦さんのスマホから流れ出る自分の声。
『あーあー、よし、OKかな?俺は引き篭もり系Vtuberアヤメだよっ!よろしくね〜』
俺は下を向く。ヤバい、めっっっちゃ恥ずかしい。親に内緒で書いた小説を知らぬ間に見られていた、みたいな。分からんけども。
敦さんは配信を途中で止めたかと思うと、別の配信をタップする。
「待ってそれは……ッ!」
『うみゃぁぁあっ!今の音何ぃ!?ぴゃっ、なんか二階から物音するうぅ!!うにゃーーっ!?』
「うああああぁ………!」
顔を両手で覆って羞恥に悶える。なんて拷問だよ…っ!
これは最初にホラゲ配信をした時のやつやん…!!雑談配信中にリクエストがあまりにも多くて、せざるを得なかった時の。
ゾンビを倒す某人気ホラゲをしてみたところ、あまりにも怖すぎてストーリーは進まないわ、それなのにバトロワ系のゲームとかもしてきたから弾は綺麗に頭を貫くわでコメ欄が騒然としていた気がする。
あれから意外にも反響が凄くて、多くのリクエストが寄せられ週一の頻度でホラゲ配信をすることになったとは、あの時は俺は思いもしなかっただろうな…。
敦さんはにこにこ笑顔で「あ、見て見て、この時、私スパチャしたんだよねぇ」と配信を一時停止する。
んん?と指の隙間から画面を盗み見ると、敦さんが指を差したスパチャがすぐ見つかった。真っ赤で異様に目立つ…ん?真っ赤?
「赤スパじゃん…っ!」
うわああぁ、とまたもや頭を抱える俺を見て、くすくすと笑う敦さん。
スパチャをよく見ると、なんだか見慣れたユーザー名…。
「え"、〈アツリーヌ〉さん!?」
俺の反応を見て、にこっと笑みを浮かべる敦さん。「やったぁ、認知されてる」と周囲に花を散らすようなほわほわした空気を纏う。
いやいや、え、ええ??
〈アツリーヌ〉さんのことは、名前が印象的だったのと、初配信に来てくれた古参ファンで、それから今まで一度も欠かさずに配信を見てくれていたから覚えている。
でも〈アツリーヌ〉さんって、配信中ことあるごとに赤スパを投げてくるんだよ。他のリスナーさんも慣れてしまって赤スパが表示されても【またか…】って反応だし。
それがまさか敦さんだったなんて…。
〈アツリーヌ〉さんは相当なお金持ちなのだろうと思っていたが、まさか豊財家とは。
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