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「でもそれなら、俺がなっても意味ないんじゃ…?」
俺がなったとしても、声が良いわけでもなく、リスナーさんからもお世辞を言われて成り立ってるだけなのに。
そう言うと、敦さんはやっぱり、と言って苦笑した。
「〈アヤメ〉も自覚がないからね…。全く、良い事なのか悪い事なのか…」
俺がその言葉に首を傾げると、敦さんは咳払いして、「少なくとも」と続ける。
「君だったらこの学園の全生徒も納得だろう。だから安心するといい。私が保証しよう」
「そうですか……」
そんなことはないけどな…、と思うも口には出さずに心の中に留めておく。面倒なことになりそうな気がする。
「それに君は配信者だ。身バレを防ぐためにも、生徒として通わない方がいいと思ってね」
「放送委員長になるのは分かりましたけど…、それじゃあ、他の問題とかはどうするんですか」
ありがたいが、色々と複雑なことになりそうだ。不安になって聞いてみると、安心させるような柔らかい笑みを浮かべる。
「それはできる限り彩都くんの意見を取り入れようと思ってる。万全な状態で放送に臨んでほしいからね」
つまり、俺の希望を聞き入れてくれるってわけか。
俺は学園に行くって決まった時から思っていたことを吐露する。
「だったら、部屋の中から放送してもいいですか?あまり外に出たくなくて……」
甘えた考えだが、俺にとっては重要事項だ。ここは生徒数も多そうだし、先ほどの話を聞く限り、どうやらかなり刺々しい生徒さんばかりみたいだ。
かなり、いや全く関わりたくない。
鉢合わせでもしたら最悪失神する可能性だってある。
敦さんがきょとんとしたと思ったら、思い切り吹き出した。
「東雲くんの言った通りだね。勿論、大丈夫だよ。それにしても、本当に君は〈アヤメ〉だね」
褒められてるのか貶されてるのかは置いておいて、優にぃの方をバッと向く。
「ありがとう優にぃ〜〜!」
流石マネージャー!と目を輝かせていると、「当たり前だろ」と言って頭をくしゃくしゃと撫でられる。
えへへ、優にぃがマネージャーで本当に良かった。
「さてと、大体は話終わったかな」
そう言って敦さんは手を叩いた。
「彩都くんならいつでも理事長室に来ていいからね」
そう言って微笑まれるが、恐らく俺が理事長室を訪れることは今後ないだろう。
そう思いながら、やけに静かなゆうの方を向けば、瞼を完全に閉じて夢の世界へ旅立っている幼馴染の姿が。
「全く…。ゆう起きてー」
揺さぶると、小さく唸ってから目を開けて、俺の瞳と焦点があう。
「話は終わったから、ここから出るよ」
そう言うと、まだ頭がぼうっとしているのか、「ぅん……」と微かに返事をした。
背中を押して扉まで行くと、優にぃがスマートにドアを開けてくれる。
それくらい頑張れば俺だって…、と不貞腐れていると、「あ、そういえば」と敦さんが思い出したかのように呟いた。
「彩都くんの部屋、身バレ防止の為に、俺の隣だから」
「え」
「それと、今日ある全校集会で挨拶よろしくね。自室からマイクで挨拶してもらえればいいから」
「え、…えええええ!?」
閉まりゆく扉の隙間から、敦さんが「またね」と良い笑顔で手を振っているのが見えた。嘘だろ。
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