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それからベッドでごろごろして、たまにくすぐりあって二人して笑う。
穏やかな時間はあっという間にすぎていくもので。
「…あ、全校集会」
時計を見ると、10分前になっていた。
「えー、やだやだ〜!」
起きあがろうとする俺の腰をガシッと掴んで離さないゆうの頭を撫でる。
「うーん、だって放送委員長、引き受けちゃったし…」
耳が垂れてこちらを潤む瞳で見つめてくる。くーん、と犬の声まで聞こえてきそうだ。
全てを投げ出したくなるけど、ここは心を鬼にしなくては!
「だ、駄目だよゆう!俺行かなきゃ!」
意志を強く持ってガバッと起き上がると、ゆうもそのまま釣れる。
扉に向かって歩き出すも、ゆうが後ろから抱きついて腕をお腹に回す。
「あの…ゆう? 歩きづらいんだけど」
「俺もついてく…」
ぎゅう、と力を更に強めて抱きしめてくるので、「あ、そうですか」と諦めてゆうを連れたまま配信部屋に行く。
ゆうの方が身長が高く、歩こうとしても転びかけてしまうため、途中でゆうが俺を姫抱きしてスタスタ歩き始めてしまった。
ゆうの顔がムスッとしていて明らかな不機嫌顔だったので、何も言えずされるがままにしておく。こういう時のゆうは怖いんだよな。
配信部屋に入り、俺を中で下ろす。
「あ、ありがとう。ゆう」
「……」
無言のままのゆうが怖くて表情が見れない。取り敢えず椅子に座ろうとしたら素早く動いてゲーミングチェアの上に座るゆう。
「…ん?え、何して……?」
俺座れないじゃん、立ったまま放送しろって?ええ…。
困惑して立ち尽くす俺を見て、ゆうが膝の上を手で叩く。
よく分からないが、俺の認識が合ってれば、膝の上に座れ、ということだろうか。
おずおずとゆうの膝の上に腰を下ろすと、すぐにお腹に手が回され、肩口に顎を乗せられる。
どうやら正解だったらしい。
(マジか…。俺この状態で放送…?)
パソコン本体は、どれ程ハイスペックなのか想像もつかないほどに高性能で、豊財家の財力を思い知る。
ゆうが「あ、これ」と声を上げるので、どうしたのかと振り返る。
「いや、このパソコン一式、豊財グループがまだ売りに出してないやつっぽいよ」
「え!?」
確かにハイスペックだとは思ったけど!やけに画面大きいなとは思ったけど!!
豊財グループの機材はよく使わせてもらってます。本当お世話になってます…。
「てことは彩都が最新作を一番最初に使えるってことなんだ。へー、すごぉ」
感嘆の声を漏らして目を見開くゆう。うんうんと頷いていると、ふと目に入るのはパソコン本体についてある改札でよく見るカードをピッてするやつ。改札なんて行ったことないけど。
カード…?と首を傾げながら、唯一思い当たるカードみたいなもの…敦さんからもらった黒いカードをそこに当ててみる。
ピッと機械音がして、パソコンの画面いっぱいに建物内部の光景が広がる。
「これって…!」
「最新作を彩都専用に作り替えてるんだね〜。彩都だけの特注じゃん」
「マジか…」
このカードから接続して、こうやってその場と景色をリアルタイムで共有するんだ。
それなら挨拶のタイミングも違和感なくできる。
「ここは体育館…かな?」
それにしても広い。広すぎる。どうやら職員席の机の上にあるカメラと接続されているらしく、体育館ステージも、生徒の皆さんの様子もよく見える。
「うわ、この女の子可愛い〜…」
所々に可愛らしい女の子がいるのを見て、思わず声を出す。アイドルの人とかに引けを取らない可愛さだなぁ。
そう思っていると。
「あ、男子だよ」
「…ぇ?」
「ここ、男子校。全員男」
「え」
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