彩都と全校集会

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「き、聞いてないんだけど!?」 「そりゃ、言ってないし♪」 衝撃の一言に目を見開いて問い詰めるが、それを諸共せず、逆にるんるんでさも当たり前のように答えるゆう。 あまりの温度差に怒る気力もなくなる。 「うう…。女の子…!青春…っ!!」 項垂れていると、後ろから苦しいほど腕に力を込められる。 「ちょ、ゆう…!苦し…ッ!!」 あまりの圧迫感に眉を顰めると、ゆうはほんの少し力を弱める。ほんの少しだけど。 「どうしたの、ゆう」 心配になり問いかけると、肩に頭をぐりぐり押し付けられて、ほんの小さく何かを呟く。 「何?なんて?」 「………やだ」 「えっ?」 駄々っ子のように表情をムスッとさせ、閉じ込めるように抱きしめられる。 「浮気だめ」 「う、浮気っ?」 思わず声が裏返る。いつの間に俺とゆうは恋仲になっていたんだ。 「あや、さっき言った。『ずっと一緒』って」 恐らく、印をお互いにつけ合ったときのことだろうか。確かに言ったけど…。 「おれのあや。いなくなっちゃだめ」 幼児返りしたように辿々しく紡がれる言葉に、既視感を覚える。 俺はゆうの頭を撫でながら、言い聞かせるように言う。 「ゆう、ゆう。俺は離れたりしないよ。離れるわけないよ。だから落ち着いて、俺はここにいる」 ゆうの俺に対する感情は、友情というより執着に近いんじゃないかと自分でも思う。 不安になると、たまにこうして発作のように俺から離れなくなる。 別に苦ではない。逆に安心する。 ゆうは“明る過ぎる”から。その屈託のない笑顔の裏には、しっかり人間らしい暗さがあるんだって、そう感じれるから。 周囲から見れば、俺も相当歪んでるんだろう。 だけど根本的に違うのは、俺は“ゆうが離れてもいい”って思ってること。 ゆうが俺から離れることは恐らくこれから先ないだろう。 だけど。だけれど。 もし、ゆうが俺の側からいなくなることがあるとしたなら。 (…俺は止めないよ、ゆう) ゆうの好きにするといい。俺に執着するのも、飽きて捨てるのも。 だってその方が“楽”だから。 絶望せずに済む。恨むことも、悲しむことも、寂しく思うこともない。 __“あのとき”みたいに。 ゆうや優にぃを信頼していない訳ではない。俺が怖いだけ。怯えてるだけ。 だから俺は一切関与しない。ゆうがどんな選択をしたって、俺は受け入れる。 でも、少しだけ。ほんの少しだけ望むとしたならば。 (捨てるなら、早めにしてね…?) なんて。こんなことを言ったら、ゆうは俺をどんな手を使ってでも部屋に閉じ込めるだろう。軟禁、なんて生易しいものでは済まないかもしれないな。 ふ、と自虐的に笑って、肩に当てられる頭をそっと手で掬う。 少し濁った瞳を揺らしているゆうの唇に、優しくキスをする。 口が離れると、ゆうが今度は俺の顔中にキスをする。 頬に額、鼻先や瞼。最後に唇に触れるだけのキスをすると、瞳に光が宿って落ち着いたように見える。 ゆうが不安になると、俺は必ず毎回これをする。 俺がちゃんとここにいるか。離れたりしないか。拒否しないか。 ゆうはキスで確かめて、安心する。 毎度のように行われるこの行為に、ゆうの体は安心するようになったのか、落ち着いたようで小さく息をつく。今は俺を優しく抱きしめている。苦しくない程度の力に安堵して、俺は画面に向き直った。 ステージ上に、さらりとした長い黒髪を一つに束ねた美人さんが立ち、マイクを手にする。 『それでは只今より、久遠学園全校集会を開式致します』
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