彩都とアヤメ

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それが分かったのは、俺が小学六年生で優にぃが中学二年生の時。 それまでは、俺は優にぃに嫌われていると思っていた。話しかけても顔を逸らされ、小さく「…ああ」と言ってその場を去っていく。 だが俺は好かれようと必死で優にぃの後をついていった。 そんなある時、優にぃの誕生日だったので、俺はサプライズでケーキを作ろうとしていた。 優にぃの好きなコーヒーを使った、コーヒーケーキ。 完成したケーキは不格好で、お世辞にも美味しいとは言えない出来だった。 「優にぃには食べさせられないな…」 後で自分一人で食べようと思い、台所から冷蔵庫へケーキを移動させてる時。 「うわぁっ!?」 俺が持つと顔が隠れるほどのホールケーキを持ったせいで、重心が前に傾いたのか、俺は自分の左足に右足を引っ掛けて、前に倒れた。 __と、思ったのだが。 「…っと」 気づくと俺の視界は真っ暗で、何が起こったか分からなかった。 「…大丈夫か」 しかし、優にぃの声を聞いて、抱きとめてくれたのは彼だと知る。 「あ…っ。ご、ごめんなさい……!」 俺はすぐにその場から離れ、優にぃを伺うように見る。 手には俺が作ったケーキがあり、ケーキが無事なことと、見られたことに焦る。 「……これは、お前が作ったのか?」 静かに尋ねる優にぃ。その目は何を考えているか分からず、必死に誤魔化す。 「ち、違うよっ?俺のおやつにしようと思って…」 「お前は自分用のケーキに蝋燭を用意するのか?」 「あぅ……」 台所に置いてある袋には、蝋燭が何本か入っていた。味見をした後、食べてもらうような味ではないと判断して、片付けるのが面倒くさくて放っておいたのだ。 先に片付けておくんだった…。 黒色の瞳が射抜くように見つめてきて、その黒真珠の中に俺が映っている。 俺は黒い髪に青い瞳、優にぃは青い髪に黒い瞳。色を交換したような俺たちは、どこからどう見ても兄弟で。 (……優にぃは、俺が弟で嬉しいのかな…) ケーキもろくに作れないし、嫌われてると分かってもウザったらしく後をついていく俺を、優にぃは好ましく思っているのだろうか。 「優にぃが今日…、た、誕生日だから…っ、好きなコーヒー味のケーキっ、作ったの…!」 「………」 視界がぼやけて、滲んでいく。頭の隅では、水彩画みたい、なんて思っている冷静な自分がいる。 目の前がぐしゃぐしゃで、優にぃがどんな顔かも見れない。みっともない姿を見られたくなくて、下を俯く。 「…食べていいか?」 「だ、駄目っ!優にぃは、お店のやつ食べてもらう…」 「どうして?」 「見た目が悪いし…、味も美味しくなかった」 「…そうか」 …ああ、失望されただろうな。もう後ろをついて行くのも駄目なのかな。 _カチャ 何をしているのかと思い顔を上げると、優にぃがフォークを持って、ケーキの端っこを取って口に含んでいた。
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