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開式の言葉を放つ彼に、体育館中の生徒が悲鳴?雄叫び?を上げる。
それを予知したように俺の耳に手を被せたゆうのお陰で、大分小さく聞こえる。それでも充分大きな声なため、びっくりして肩が跳ねた。
俺はゆうに守ってもらったけど、ゆうは…?と思い振り向くと、にこりとした笑みを浮かべていた。
よく見ると、耳栓をしているのに気がつく。
「耳栓あるなら俺にもしてよ……」
「俺が守ってあげるから、ね?」
いい笑顔で言われてしまっては反論できない。不満顔で頬を膨らますと、後ろから笑うような声と同時に指が伸びてきた。
その指は俺の頬をつつく。口内の空気が抜けて萎む頬を、今度は親指と人差し指でつまんで横に伸ばす。
「ひょ、あそばないれ(ちょ、遊ばないで)」
「挨拶の時までだから〜。ダメ?」
犬耳を垂らして、目をうるうるとさせるゆう。
捨てられる子犬(実際は大型犬)の目をしてこちらを見つめるものだから、毎度のことながら策士だなと逆に感心する。
…それで許可を出してしまう俺も俺だが。
将来怪しい壺とか平気で買ってそうな気がする。今現在だって、「体力がとてもつきやすくなるお守りですよ〜!」とか言われたら、高額を支払ってでも買ってしまうだろう。
まあ、その前にストップをかけてくれる人が俺には二人いるけど。
頬をむにむにされながら画面を見つめる。
『静粛に』
彼がたった一言、声を張った訳でもなく、ただポツリと呟いたそれに、生徒全員が水を打ったように静まる。
その一連の動きに目を見開いて、画面に食い入るように身を乗り出す。
「彼は今何をした…?いや、何もしていない…のか?それだけであの騒ぎが収まるなんて…。声質?いや、音の響き方かもしれない………」
彼の声に何か秘訣があるのかと気になり、彼の喉や口などを繰り返し見ながら推察していると、ふいに視界が黒で覆われる。
恐らくゆうの手のひらだろう。
そのまま上を向かされ、そっと手を外されると、視界いっぱいに映るゆうの顔。その顔はどこか不満気で、額に軽くキスをされる。
「あーや。そんな近づいたら目が悪くなっちゃう。それに、別にこの学園じゃ珍しくともなんともないよ?」
俺は仮にも声を売りにしている活動者だ。リスナーさんを飽きさせないため、色々な声を調べて探究している。
たまにこういう風に探究モードがオンになると、今みたいに周りのことも気にせず満足するまで突き詰める。
悪い癖が出たな、と内心眉を顰めるが、それにしても、だ。
「えっ?この学園には効果をもたらす声を持つ人が彼以外にもいるの!?それは凄いよ!ぜひとも一度会って話をしてみた「あーや」……はぁーい」
部屋からは出るつもりはないが、話す機会があればいつか語り合いたいな。できればその声質を真似できる程には。アヤメとバレてしまうからできないけど。
ゆうの正論にぐうの音も出さずに大人しく返事をする。
ゆうは俺の沈んだ空気を読んで、小さくため息をつくと、頭を撫でる。
「この人は声で鎮めたんじゃないんだよ」
「…?」
「彼はこの学園の副会長だからね」
それと何の関係が…?と首を傾げると、ゆうは苦笑して、「そうだねぇ」と呟く。
「この学園の生徒会は、いわばアイドルなんだよ」
「…は?」
「推しのアイドルには従っちゃうでしょ?それと同じかな。だから声は関係ないんだよ」
どうやら個性多きこの学園では生徒会=アイドルの式が完成してしまっているらしい。
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