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推し、というものは分からないけど、確かに大切な人の頼みは聞きたくなるよな。
納得がいきなるほど、と呟く。
「それにしても……」
ゆうは俺の体を持ち上げて対面式に座らせる。
「言ったそばから他の誰かに目移り?」
浮気者、と耳のすぐ近くで囁かれ、肩が小さく跳ねる。
『生徒会の紹介をします』
画面から声が発され続ける。どうやら式は進行していて、生徒会の人達が挨拶をするみたいだ。
「ちょ、ゆう…っ!画面、見れないよ…っ」
背後から声が聞こえて、それを遮るようにゆうは耳の中へ舌を入れた。
「んあっ!?」
鼓膜を直に震わす水温が脳に響くように大きく聞こえて、挨拶の声なんて聞こえない。
「んっ、それやあっ!」
そう言うと、ゆうは耳から口を離し、「仕方ないなぁ」と呟いて後頭部に手を添える。
まさか、と思った時にはすでに遅く、深く口付けをされていた。
「ん、ふ…っ、んん…」
舌が交わるたびに耳に届くほどに聞こえる卑猥な音。それに違和感を感じる。
(わざと音を出してる…?)
水音がやけに響く室内で、脳が痺れて思考が置いていかれる。
音が聞こえて恥ずかしいけど、それを越すほどの快感に、身体の奥がじりじりと何かに対して焦がれる。
腰をぐっと引き寄せられ、隙間がないほど密着した状態で後頭部を押さえつけられる。
俺の手はゆうの背中に回り、お互い抱きしめるようにして貪り合う。
ゆうがチラリと画面を見たかと思えば、ふと口が離され、ぼやける視界でゆうの口との間につー、と伸びる銀糸を眺める。
浅い呼吸を繰り返し、ゆうにもたれかかるようにして息を整える。
ゆうが鼻歌を歌いながら背中をぽんぽんと優しく叩く。やたらご機嫌なゆうを不思議に思う。
目尻の涙を親指で拭き取り、赤く染まる頬を見て嬉しそうに目を細める張本人。
キッと目を鋭くして睨むも、唇にキスを落とされるだけ。
何がしたかったんだと眉を顰めながら画面を振り返る。
「…ってあれ!?生徒会の皆さんはっ?」
挨拶がもうすでに終わったようで、他の委員長さん達の挨拶になっている。
それも丁度終わり、さっきの美人さんが次の紹介に移る。
『では次に…、風紀委員長』
キスをされていた間にそこまで進んでいたとは…。生徒会の皆さんを一度見てみたかったのに。
ゆうが唖然とする俺を見て口角を上げる。
(あんなやつら、あやに見せる訳ないじゃん。…惚れでもしたらどうすんの)
そんなゆうの思惑にも気付かず、俺は風紀委員長さんは見逃さないぞ!と息を巻いて、次に映る人物の姿を視界にとらえる。
そして次の瞬間、さらに目を見開くことになる。
「__優にぃっ!?」
『………風紀委員長、東雲優だ』
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