彩都と全校集会

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優にぃはいつもの無表情をさらに無にして、冷徹な雰囲気を纏っていた。 『久遠学園の秩序を保ち、乱す者は誰であろうと裁く。…これが我々風紀委員会だ』 すっと目を細め生徒を威圧する姿は、普段の優にぃにはとても思えなくて。 見た目が同じな別人かと錯覚してしまう。 だけど名前は同じだから、恐らく同一人物だ。 頭が混乱して、ただ呆然と画面に映る優にぃを見つめる。 いつもはとろりと溶け出しそうなほどに甘い黒蜜みたいな瞳が、今だけはゾッとするほど冷たく感じた。 ヒュッと喉から空気を浅く吸う音が聞こえた。肺に取り込まれた空気が冷たく感じる。無意識にゆうのシャツを握りしめた。 自分に向けられた訳じゃないのに。こちらを向いている訳でもないのに。 なんだか、優にぃが別人になったようで。 __少し、怖かった。 優にぃが美人さんの方に視線を向けて、美人さんは少し不機嫌そうにしながらマイクを握りしめる。 『では、最後に__。…放送委員長の紹介です』 その瞬間、ザワザワと体育館が騒がしくなる。 高性能なカメラは、生徒さんの声すら綺麗に拾う。 『…え、今放送委員長って言った?』 『そうみたい!どうせ今までと同じで大したことないんでしょ』 『まあ、すぐに退学させればいいだけだし』 可愛らしい男の子たちはそう言って、その小さな口で鈴のように高い声で笑う。 俺がその一言一言に肩を跳ねさせると、腹に回された腕に力がこもった。 「あいつら…!!」 「い、いいよ。事実だし……」 ゆうが怒りを露わにして拳を握る。俺はそれを慌てて止めると、雰囲気は幾分かマシになったものの、大きな舌打ちをして目を鋭く細めた。 それでも嘲笑うような声が耳にどうしても届いて、思わず涙で視界が滲む。 情けないことこの上ないが、一度滲んだ視界はさらに悪化し、頬に水滴が伝う感触がした。 優にぃは美人さんからマイクを奪い取る。 美人さんの小さな驚きの声をマイクが拾う。 顔を上げて画面を見れば、優にぃが大胆不敵に笑っていた。 『放送委員長を推薦したのは、理事長…そして風紀委員長の俺だ』 その瞬間、一瞬空気が固まって、すぐに波紋のように動揺が広がっていく。 『どう思うかは君たちの自由だ。…だが、放送委員長の声を聞いてからにしろ』 優にぃはマイクを美人さんに無理矢理押し付けて、ステージを降りる。 カメラに目掛けてただただ無言でこちらに向かってくる優にぃにびっくりしていると、丁度画面に優にぃの顔がよく見えるように映ったところで足を止めた。 そしてこちらを見て、いつものあの甘い瞳をして、口を動かす。 『ぶちかませ』 その後、ニッと意地悪に笑う。 声を発した訳じゃない。口パクで伝えられただけの五文字。 その言葉が、俺の体を突き動かした。 机の上のマイクに手を伸ばす。ボタンに指が触れる。 微かに震える手。それを誤魔化すように深呼吸して、指に力を込めた。 __カチッ 「初めまして。この度放送委員長に任命されました、東雲彩都です。俺にはもう一つ呼び名があります。__アヤメ、です。どうぞお好きな方でお呼び下さい」
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