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『ば、馬鹿ってどういうことですか!!』
「いや当たり前だろ」
さっきから敬語が外れてただのタメ口になってしまったが、生徒さんたちは気にしてないようなので遠慮なく毒を吐こう。
「なんで声付きでしなきゃいけないんだよ。文だけでいいでしょ」
『いや、声付きの方が贅沢だし…』
ゴニョゴニョと何か言っているが、どうせくだらないことに違いない。
早速投稿しようとスマホを手にとって聞き流そうとする。
『ほ、ほら!声付きの方が信憑性あるしっ!』
「……確かに一理ある」
一番説得力があるかもしれない。
そう思いながら考え込んでいると、先程の生徒が小さく『……ちょろ』と言っていた気がするが俺は断じてちょろい訳ではない。
「ちょっと待ってて……」
スマホでアヤメのアカウントを開く。
要望された、およそ健全な男子高校生が好き好んで言うような台詞とは思えない、本人に羞恥を抱かせることを目的とした(そんなことはない)言葉を打つ。
打つ間も心を無にして頑張って書いた。
文を打つだけでも心が砕け散るのに、これを声にも出すとか…。本当に人間か?
「んん…。それじゃあ、逝きます」
『漢字が違う気がしますよ!?』
男の子のツッコミを無視して深呼吸する。
急に体育館が静まり返る。これ、下手すると美人さんが注意した時より静かじゃない?
え、皆アヤメのこと知ってるの?ただ面白がってるだけ?
沈黙に若干怖くなりながらも、右手にスマホをスタンバイして、いつでも投稿できるようにする。
「……に、にゃんにゃん………!」
同時に、勢いに任せて投稿のボタンを押す。
ピコン、とゆうのスマホから通知音がなる。
ゆうが俺をフォローしていたことは知っていたが、それが今だけは黒歴史爆誕を祝うメロディーにしか聴こえなくて穴に入りたい。切実に。
「…あぁ……」
心の底から出た絶望の声。相手が聞き取りやすいように心掛けてない声は、喉から掠れたように放たれた。
それすらも拾ってしまうマイクの有能さ。全く豊財グループは素晴らしいですね!!(ヤケクソ)
その声を聞くなり、体育館に緊張が張り詰めた。もう光を宿していないであろう目を画面に向けると、可愛い男の子たちが主に赤面していた。
「…?」
よく分からないが、とりあえず信じてもらえたと思っていいのだろうか。
緊張が解けて体がとても重く感じる。ゆうにもたれかかるようにして体勢を整えると、マイクのスイッチをオフにされて、そのまま頬に口付けられる。
「お疲れ〜、あや」
「んー…」
曖昧に返事をして、俺からもゆうの頬にキスを返す。
〈作者より〉
約束の通り、新作公開しました!ぜひそちらも覗いてみてください!(少ししたらこの部分は切り取ります)
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